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1990/06/15 毎日新聞朝刊
[安保30年目の変質]/4 焦燥深める社党
◇「現状追認」脱却めざし
 「ドラマチックに変わる世界情勢を前に、どのような政策を作るか。既存のワクにとらわれない挑戦、努力をしなければならない。党が安保、防衛問題で具体策を出すのかどうか、いまほど注目されている時はない」
 社会党の上原康助安保基本政策委員長は、一気にまくしたてた。
 東京都港区赤坂の衆院副議長公邸で六日夜開かれた、シャドーキャビネット(影の内閣)作りをめざす同党の総合政策調査会初会合の席でのことだ。調査会長の伊藤茂政審会長が「憲法問題から入ると難しい。政権を担う党、かつ護憲の党の立場でいろいろな角度から話し合おう。特別プロジェクトチームを作り、期限を切って結論を出すようにしたらどうか」と提案して締めくくった。
 六〇年安保の際、安保反対闘争の先頭に立ち、「安保廃棄」「自衛隊違憲」を掲げた社会党は、十年前の衆参同日選挙中発表した「緊急民主政府大綱」で「日米安保の拡大適用をやめる」との表現で、当面存続を認める方向を打ち出した。その後、八五年の党大会で自衛隊について「違憲・法的存在論」を決定。さらに昨年の「土井提言」で連合政権下での「日米安保存続」を明確にしてきた。
 総合政策調査会の話し合いを受けて党安保・自衛隊・軍縮基本政策委員会は十三日の三役会議で討議を開始したが、議論は百出。
 上田哲氏「違憲・法的存在論は党大会決定だ。この委員会で白紙に戻して見直すのでは困る」
 上原氏「学者のアドバイス、大衆運動家の意見も聞きたい」
 矢田部理氏「昨年の米ソ・マルタ会談以降、冷戦構造は解体に向かっている。安保、自衛隊政策を根本的に見直すべきだが、あくまで軍縮論に立脚して考えよう。連合政権構想の中で公明、民社両党から迫られている自衛隊の憲法問題について、どう答えるか」
 このあと会見で「違憲・法的存在論」を見直すのか、と記者団から突っ込まれた上原氏は、「固執することでもないが、党の長い歴史もありそこを抜いての議論はどうか。安保、自衛隊政策は難題」と、歯切れは悪かった。
 土井委員長は、このところ日米関係の重要性をしきりに力説、訪米の意向も明らかにしている。その米国が「安保改廃せず」との意思を鮮明にしている以上、安保存続を前提に政策を見直しせざるを得ない。しかし、スンナリ結論を出せないのが、社会党の歴史だ。「政権を担う党」を標ぼうし、シャドーキャビネット作りに乗り出すといっても結局は単に現状追認型の安保是認論から踏み出せないのでは、との冷ややかな見方もある。党内の論議は、社会党の焦燥ぶりを端的に物語っていた。
 安保「堅持」の民社党と「容認」の公明党は連合政権協議で、社会党に安保政策の転換を促し続けてきたが、両党もまた国際情勢の変動をにらんだ模索を始めている。
 民社党は四月の党大会で採択した運動方針で、安保への認識の転換を図った。「堅持」こそ変えなかったが、「その運用にあたっては、これまで以上に経済協力などの側面を重視するなど、緊張緩和の時代に適合したものにしていく」との記述を初めて盛り込んだのだ。総選挙敗北を受けた委員長交代劇や路線問題が焦点となり、新運動方針のこの部分はほとんど注目されなかったが、それは安保変容への布石だった。
 一方、公明党は市川書記長が四月の衆院予算委で防衛費の凍結を提唱。さらに「自衛隊の改革」「日米安保体制の縮小」に関する私案を発表した。
 結党以来、安保政策の“揺れ”が指摘されてきた公明党が今度はどう動くのか――。米国にとっても大きな関心事に違いない。五月二十三日、東京・日比谷の帝国ホテルの一室でアマコスト大使は石田委員長、市川書記長らと昼食をまじえ懇談した。日米構造問題協議をめぐる議論が一段落すると、大使は市川氏に「日米安保、防衛について公明党の考えを聞きたい」と切り出した。
 市川氏「安保条約は政治、経済的な面の交流も含めた幅広い友好条約のような形に改めていくべきではないか」
 大使「安保条約で防衛のくだりが出てくるのは、第三条以下だ。条文を読んでみれば、幅広い友好条約としての性格を備えている」
 大使は「市川私案」を十分念頭に置いているようだった。
 市川氏はその後「安保から『軍事』をなくすべきだといった考えは毛頭ない。要はイメージ論だ。安保はこの三十年間で手アカがつきすぎたから」と真意を説明する。
 共産党はなお日米軍事ブロック反対、安保廃棄の方針で一貫しているが、安保が「保・革」の踏み絵、与野党を隔てる分水嶺(れい)と位置付けられた時代はもはや過去。脱イデオロギー化の中での安保を、さて野党もそれぞれにどうするか。
(政治部・西山 猛)=つづく
 
 
 
 
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