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2001/06/13 産経新聞夕刊
【和田秀樹のべんきょう私論】文部科学省は説明責任を果たせ
 
◆教育改革の中身、どんな疑問にも
 2002年度からの新学習指導要領で学校教育がどうなるのかがよくわからないという親御さんは少なくないだろう。私の知る限りでは教師でさえ、相当混乱しているのが現実なのである。
 たとえば、授業内容を3割も削減して、子どもの学力は本当に大丈夫なのか、不安になるのはもっともな話だ。
 それ以上に、今回初めて導入される総合的学習の時間というものがある。
 国語と算数の次に多くの時間が割かれるものなのに、誰が教えてもよい、どこに行ってもよい、原則的に何を教えてもよいというあまりに教師側の自由度が高い時間なので、どんなことをするのかは不安だろう。
 当然、このような大胆な改革を行う文部科学省側には、納税者である児童父兄に説明責任があるはずだ。
 実際、文部科学省は寺脇研審議官をスポークスマンに立て、これまでと比べものにならないくらいテレビや新聞、雑誌に出演をして、同省の言い分を伝えている。
 寺脇氏とは、対論を著書にしたことがあるくらいで、反対派の意見も聞く人だと感心していたが、先日、政策の説明責任者としてこれでいいのかと感じさせるできことがあった。
 とある人気テレビ討論番組で、ゆとり教育の危険について、寺脇氏と激論をかわしてくれという依頼が来た。私自身も、人気番組でこの危機を一般の主婦の方に訴えることができるのはよいチャンスだと思い、二つ返事で引きうけた。
 しかし、数日後、番組のディレクター氏から申し訳なさそうに、「討論相手の寺脇審議官が、和田氏と議論するなら出ないと言っている。文部科学省の担当者が出ないと番組が成立しないので、辞退してほしい」という電話があった。
 ディレクター氏が嘘をつくとは考えにくいので、視聴率も高く、多くの人が見る番組では、彼が私との議論を避けた可能性が強い。
 著書で対論したからいいだろうという意見があるかもしれないが、まだこれだけ多くの国民が今回の教育改革のことがよくわからないという現状を見ればそういうものではないだろう。
 ことが、一国の教育内容を大幅に変えるような重大問題なのであるから、この政策についてよい点だけでなく、危険な点についてどう考えるのかを、なるべく多くの人が見るメディアで説明するのが責任というものである。
 その政策のスポークスマンが、Aという質問者の疑念には答えるが、Bという人間の疑念にはテレビでは答えないということが許されるなら、国民には偏った情報しか与えられないだろう。
 そうでなくても答弁のうまい官僚の中で、スポークスマンに選ばれるくらいの人物相手では、よほど数字や実績に裏付けられたデータをもって議論しないと、国民は彼の説明で、ゆとり教育や総合的学習のメリットを素直に信じこまされてしまう。
 「新しい政策の問題点について、書物や新聞などを読まない不勉強な国民のほうが悪い」「受動的なテレビ情報をあてにするほうが甘い」という考え方も確かにあるだろう。しかし、それは現行の情報開示の方向性と逆行する。
 まだまだみんながわからないと言っている教育改革なのだから、どんな方向からの疑問にも真剣に答えてほしいというのが、私の文部科学省に対する要望である。(精神科医)
◇和田 秀樹(わだ ひでき)
1960年生まれ。
東京大学医学部卒業。
東京大学医学部付属病院精神神経科助手を経て現在、一橋大学経済学部非常勤講師、東北大学医学部非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問などを務めるかたわらマスコミにて積極的な言論活動を展開している。精神科医。


 
 
 
 
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