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2001/06/06 産経新聞夕刊
【和田秀樹のべんきょう私論】親が勉強を教える意義は 学習嫌いの予防
 
 昔と比べて親が、特に母親が高学歴化しているし、我々の世代になると、親のほうも中学受験体験があったりするので、親がしっかり勉強を教えるという家庭が少なくないようだ。
 私自身も、時間が許す限り、子どもに勉強を教えるようにしているし、この風潮には両手を挙げて賛成したい。
 教育改革が進むアメリカでは、家庭学習が特に重視されていて、「最初の先生は親」奨学金という、子どもに親が勉強を教えてあげればお金をもらえるというシステムまで用意されている。
 それだけ、国際的には、家庭で親が子どもに勉強を教えることに意味があると判断されているわけである。
 私は、これにはいくつか理由があると考えている。
 一つは、わからないことをその場で解決できるというメリットである。子どもが勉強を嫌いになるきっかけは、大抵の場合は、勉強がわからなくなるからである。わからないことが、家に帰れば教えてもらえる、解決するというのであれば、翌日の学校の授業が辛くなくなる。
 しかし、それが放置されたままであると、翌日の授業が余計にわからなくなる。すると、だんだんその科目が嫌いになるし、雪だるま式にわからないところが増える。その科目ができないことに気づいて勉強を始めさせても、どこから手をつけてよいのかわからなくなるし、子どもも尻込みしてしまう。
 小学校の勉強であれば、親も解答を熟読すれば、どうにか教えられるレベルにはもっていけるだろう。勉強嫌いの予防として、わからないところを残さないように気を配ってあげたいものだ。私も娘にいつも口を酸っぱくして言っているのは、「わからないところを残すな」「そのために教えてもらうことを嫌がるな」ということである。
 もう一つ、親が子どもに勉強を教えるメリットは、子どもとのコミュニケーションのチャンスであることだ。
 親子の会話というと、どうしても親が子どもに、あれこれ聞き出す形になり、子どものほうも親をうっとうしく感じることが多い。
 あるいは、子どもの話題に合わせようと、テレビ番組を一緒に見たり、子どもの好きな服の流行を雑誌で見たりという形になりがちである。
 親が子どもの理解者であることは悪いことではないが、よほどうまくやらないと親子のけじめがなくなってしまう。友達親子のつもりで育てていて、思春期になって子どもがかなり危ない異性交遊を始めた際に、慌てて干渉しようとすると、子どものほうが裏切られたと感じて、結果的に子どもを不良の道に走らせるというケースが意外に多いと、何人かのジャーナリストに聞いたことがある。
 また、テレビに親が強い関心をもつことが子どもに知れると、テレビに出ている人のほうが、親より偉いと子どもが考えやすくなる。
 それと比べて、親が子どもに教えてあげると、子どもにとって親が頼もしいものに映るし、勉強にしても無理やりにやらせているという感じが和らぎ、自分を愛しているから、頭がよくなるように一緒に勉強につきあってくれるのだという感覚が育まれる。
 このような形で、子どもが親に愛されている実感をもち、またテレビに出ている人と別の観点で親を多少なりと尊敬するのは、思春期を乗り切る上で大きな武器になる。
 忙しいとか、子どもの勉強は難しいと尻込みせず、できる科目だけでも親が教える習慣をつけたい。(精神科医)
◇和田 秀樹(わだ ひでき)
1960年生まれ。
東京大学医学部卒業。
東京大学医学部付属病院精神神経科助手を経て現在、一橋大学経済学部非常勤講師、東北大学医学部非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問などを務めるかたわらマスコミにて積極的な言論活動を展開している。精神科医。


 
 
 
 
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