1997/12/22 産経新聞夕刊
【教育直言】河上亮一 基礎学力低下を招く教育改革
二〇〇三年度からの完全学校五日制に向けて、教育内容の見直しを進めていた教育課程審議会が中間まとめを発表した。中学校では週授業数を二時間削減、総合学科を二時間新設、選択教科の授業時数拡大などがその主な内容である。新学力観をもとにした文部省の教育改革はこれで完成することになる。
平成元年から始まった教育改革は、今までの学校を大きく変えつつある。特に小学校の変化が激しい。現場の教師として気になる点をまとめてみたい。
(1)基礎学力が低下している
(1)生徒一人ひとりの学習意欲を前提として強制をやめるという改革は、多数の勉強しない生徒を生み出している。
(2)文部省は、生涯学習を提唱し、学びたくなった時にいつでもその機会を提供することで、(1)の問題は解決できると考えているが、果たしてそれでいいのか。
(3)中学校に入ってくる生徒の基礎学力の低下が近年目立つようになっている。塾通いの増加は学校不信のあらわれではないか。
(4)選択教科の拡大や総合学科の新設は、基礎学力をますます低下させることになるのではないか。そのうえ、この二つの教科は基礎学力がしっかり身についていないと難しく、遊びの時間になる恐れがあり、学校の混乱に拍車をかけることにならないか。
(2)生活能力、社会性の低下が著しい
(1)生活能力や社会性を身につけるため、これまでは特別活動(行事、学級生活、部活動など)が学校の一つの柱になってきた。
(2)しかし、土曜日が完全に休みになり、平日も六時間授業の日が一日増え、放課後の自由に使える時間が大幅に減ることになると、特別活動も大幅に削減しなくてはいけなくなるだろう。
(3)しかし最近、生徒の生活能力、社会性の低下は著しく、学校での取り組みが後退することになると、どこで教育することになるのだろうか。
(3)格差の拡大
義務教育の役割は、子供を一人前の大人(国民)にすることであった。現在進行中の教育改革は強制を減らし、自由を拡大する方向に動いている。それは生徒の間に格差を広げることになるだろう。格差は基礎的な能力の分野にも及び始めている。このような改革は義務教育の役割を放棄することになるのではないか。
◇河上亮一(かわかみりょういち)
1943年生まれ。
東京大学経済学部卒業。
埼玉県川越市立高階中学校教諭、同城南中学校教諭、同初雁中学校教諭、2004年退職。教育改革国民会議委員を歴任。
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