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1997/10/27 産経新聞夕刊
【教育直言】河上亮一 生徒の自主性を引き出す特別活動
 
 二学期は行事の季節である。文化祭、体育祭、ロードレース、そして二年生は修学旅行の準備も始まる。行事は日常生活をこえ感動と緊張を作り出し、社会性を育てるチャンスである。わたしのクラスは合唱コンクールで男子の弱気のため悔しい思いをした。文化祭は男子が中心になってひっぱっていくことになった。「学校の怪談」という劇を教室で行うことになり、班をつくり役割分担をして取り組みを開始した。班長のほとんどは男子が立候補した。
 わたしは組織をつくり、仕事内容を確認したあとは手を引いた。生徒が自分たちで考え、お互いにけんかしながらもいっしょにやっていくことが大切だと考えたからだ。出来栄えは結果である。しかし、合唱コンクールで納得のいく合唱をつくれなかったことを考えると、ここで自分たちの最高のものを作って、クラスの力を見せるべきだ、とハッパだけはかけた。
 教室中を大きな壁画で埋めつくし、廊下の壁は空き缶アートで全面が埋まった。劇に出る生徒たちは屋上で練習を重ね、照明班は手作りのスポットライトを完成した。効果音もなかなか怖いものができた。ブラブラ遊ぶ生徒はほとんどいなかったようだ。生徒たちは自分たちでやる楽しさを十分に味わったことだろう。当日、一回公演の予定が、あまりに客が来すぎて入りきれず、急きょ二回にしたほどで、狭い教室は熱気ムンムン、大騒ぎであった。みんなで一緒にひとつのものをつくりあげる喜びを感じ、大満足であった。
 最近、学校では生徒が自分たちで自由にやれる時間が非常に少なくなっている。毎日の生活は、授業と部活動でいっぱいだし、授業確保の掛け声のもと、行事の準備期間も短くする傾向にある。学校では生徒が強制されて学ぶ場が必要なのだが、それと同時に自由に自分たちでやってみる場がなければだめなのだ。一人前の大人になるためには、基礎学力、基本的生活習慣、社会生活の仕方の三つを総合的に実践する場であり、生徒の自主性が最大限、発揮できる場でもある。現在、進んでいる教育改革は、行事を含む特別活動を軽視しているようである。しかし、それは生徒の社会的自立にとっては、大きな問題である。
◇河上亮一(かわかみりょういち)
1943年生まれ。
東京大学経済学部卒業。
埼玉県川越市立高階中学校教諭、同城南中学校教諭、同初雁中学校教諭、2004年退職。教育改革国民会議委員を歴任。


 
 
 
 
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