日本財団 図書館


1998年8月号 正論
拝啓 広島県教育委員会殿 第4弾
反日教育の牙城「広島解放区」の落日
歴史教科書研究家●うえすぎ・ちとし 上杉千年
 
 広島県教育界は、県教委・地教委と高中小学校校長会及び日教組系教員組合が一体となって反「君が代・日の丸・元号」教育を「反天皇制学習」として公然と実施してきた。それは、平成四年二月二十八日の県教委菅川健二教育長の日の丸・君が代に関する組合との『確認書』(菅川文書。二・二八文書)に起因する。
 この憂うべき教育実態を正そうと福山市立城北中学校社会科・佐藤泰典教諭が平成九年の三学期に努力された。そのため同年四月には同市立加茂中学校に転勤を命ぜられた。そして、連日、市教委にて、「君が代・日の丸・元号」肯定の「天皇敬愛」教育を実施したとして、授業もさせず糾弾された。
 こうした左翼革命教育の実態を筆者は『拝啓 広島県教育委員会殿』と題して、『正論』誌上に第一弾(平成九年十月号)、第二弾(平成十年三月号)、第三弾(同五月号)と三回にわたって連載した。この連載に並行した如く広島県各層の県民が決起され、県議会でも石橋良三県議(広島市安佐南区)の議会質問が続行された。特に、県民有志の、文部省や自由民主党の教育問題連絡協議会(会長・奥野誠亮代議士)への再三の陳情が、文部省と同協議会を大きく動かせた。
 かくして、ことし四月一日には、参議院予算委員会で小山孝雄議員(自民党)が佐藤泰典教諭を参考人として招致して、主として生徒指導上の問題に対して証言を求めた。そして、四月二十七日、二十八日と文部省は異例の広島県における反日教育の実態調査に入った。しかし、文部省調査の項目以外にも問題点は山積しているのである。
 
1、佐藤泰典教諭が国会で荒れる中学校の実態を証言
 
 ことし三月から四月にかけてマスコミの話題になったのは、埼玉県立所沢高校(内田達雄校長)の卒業式と入学式である。
 同校では、平成元年三月十五日に告示形式の第四回学習指導要領の高校編でも「第3章 特別活動」で、〈入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする〉としたのを受けて、平成二年二月の生徒総会で「『日の丸・君が代』に関する決議文 高等学校学習指導要領の改定にあたって」というものを採択している。その決議文とは、
〈「日の丸・君が代」について、現在国政・県政においての解釈は様々であり、法律上でも国旗・国歌として定められていません。又その点についての私達所高生一人一人の中での解釈も賛成・反対その他様々です。このような状況の中で、教育行政機関が「日の丸」の掲揚や「君が代」の斉唱を強要するということは・・・人格を形づくる時期にある高校生活の場において、思想の統制・画一化につながる恐れが多分にあると考えます。よって私達所高生徒会は・・・今後我校内での儀式その他における「日の丸」掲揚及び「君が代」斉唱の強制に、一切反対します〉
 という教員組合顔負けの主張であった。
 さらに、同年十一月の生徒総会で「生徒会権利章典」を採択している。八木秀次論文『埼玉県立所沢高校 煽動家の教育支配を許すな』(『諸君!』六月号)によると、その内容は、〈1、学校は生徒と教職員によって構成されており、その構成員一人一人の個性は認められ一人一人の主張は尊重される。2、生活向上のための自治的かつ民主的な活動の自由は保障される。3、服装、頭髪を含む表現の自由は保障される。4、思想の自由は保障される〉との条項より成るという。
 この「章典」は、一九八九年(平成元年)十一月に国連総会で採択され、我が国も平成六年六月に批准した『児童の権利条約』の所沢高校版であり、日本弁護士連合会の主張に合致しているものと考えられているようである。
 かくして、所沢高校は教育行政の枠外にある「解放区」となってきた。この異常事態を解消するために昨年四月、内田校長が赴任した。内田校長は埼玉県教育委員会が「所沢高校正常化」のため、満を持して送り込んだエースであった。そして、ことし四月の教職員の定期異動でも、〈県教委は所沢高校に六人の管理職候補を送り込ん〉だのである(山崎朋夫論文「所沢高校 日の丸・君が代はなぜいけない」『文藝春秋』平成十年六月号所収)。
 このレポート通りとすれば、県教委に「正常化」の意志はあるが、計画性はないといわざるを得ない。すなわち、内田校長一人を投入して教職員や生徒に翻弄されて校長としての権威を喪失させてしまった後に、あわてて管理職候補六人を送り込むというのは場当り人事としかいいようがない。このことは、埼玉県に限らず全国的風潮として「教育の正常化」ということが全く死語になっている現状からくるものである。
 この風潮を端的に示すのが、戦後五十年間教育を崩壊させてきた日教組五十周年の祝賀レセプション(平成九年六月六日)に小杉隆文部大臣(当時)が出席し祝意を表するという、文部省と日教組の二人三脚時代に入ったことと、もう一つは、町村信孝文部大臣が参議院予算委員会でことし四月一日に、
「私は今、日本の大きな教育の流れというものを考えたときに、先週の金曜日に、中央教育審議会のこれからの地方教育行政のあり方という中で、できるだけこれからは中央から、要するに文部省から地方へ権限をいろいろ移していく、地方の教育委員会もできるだけ学校の現場に権限を移していく、学校の現場中心にこれからは生き生きとした教育がやれるようにしようという地方分権の大きな流れの中でこれからの文部行政を展開していきたい、こう考えております」
 と答弁した如く、「教育の地方分権化」の流れである。
 この教育の地方分権化風潮により、校長は、一人で地方分権化しない日教組(日本教職員組合=旧日本社会党系)や全教(全日本教職員組合=日本共産党系)の分会と対決しなければならない。それは事実不可能に近いことである。所沢高校でも教職員六十二人中に、日教組員二十人近くと全教組員十人近くがいたが、非組の教職員は烏合の衆で誰一人として校長の指示に従う者がいなかったということがそれを証明している。
 こうした風潮が、所沢高校のように「学校の現場中心」の「生き生きとした教育」が展開されるようになるのである。
 この東の「解放区」に対して、西の「解放区」は広島県教育界である。
 このリーダーは、教育の地方分権化の権化の如き広島県教育委員会菅川健二教育長である。この教育長発出の反「日の丸・君が代」見解(平成四年二月二十八日)により、「反天皇制学習」(広島県下の教育用語)は、県教委・地教委と校長会そして日教組系教員組合が三位一体化して実施されてきた。この広島県でも最も反日教育の激烈な福山市の佐藤泰典教諭が、国会で教育の実態を体験にもとづいて証言したことは大きな波紋を呼んだ。
 
「荒廃への五段階」証言に大半の議員がメモ
 
 ことし四月一日、参議院予算委員会での小山孝雄議員と参考人佐藤泰典教諭の発言を紹介しよう。小山議員は、最初に佐藤教諭を次の如く紹介された。
「福山市は、人口三十七万人、公立小学校が六十三校、中学校が二十七校ある、極めて平均的な地方の中堅都市、こう言えると思います。橋本総理は剣道教士五段でありますが、佐藤教諭は柔道三段でございます。
 課外活動では柔道部の顧問として大変熱心に指導もしておられまして、かつては御指導なさった中学校が全国大会にも出場したことがあるという熱心な熱血先生でございます。さらにまた、生徒だけに規則を押しつけてはいけないということでみずから坊主頭で教壇に立っておられる。こういう方でございます。生活指導の面においても大変精力的に取り組んでおられるということであります」
 こういう生徒指導のべテランに荒れる中学校の現状に対して、体験的証言を求めるとの小山議員の要請に対して、佐藤教諭はつぎのように述べた。
「十二年間にわたる私の教員体験から申し上げますと、学校の荒れぐあいにはおおよそ五段階あるかと思われます。
 第一段階は、教室にあめやガムなどのごみが目につくようになり、机や壁への落書きが始まります。また、生徒がつばを廊下や階段に吐くようになります。
 どこの学校もそうでしょうが、調子が悪い、先生、熱をはかってくると言って授業を受けず保健室へ行く生徒がふえています。トイレヘ行くと言って授業中に出ていき、そのまま教室に帰らないという状況もたびたび起こっています。
 荒れていない中学校でも、ほとんどがこの段階にあります。
 第二段階になりますと、先生の注意に対して、うるさいんじゃとか、殺したろかといった暴言を吐くようになります。言うことを聞かなくなり、授業がしづらくなります。また、トイレにたばこの吸い殻が見られるようになります。
 第三段階になりますと、先生の注意に対して、スイッチが壊されたり、トイレのドアが破られたり、窓ガラスをほうきで割ったりなど、器物破損が人の見えないところで行われるようになります。また、授業に出てこない生徒集団があらわれてきます。
 第四段階になりますと、生徒を少し注意しただけで暴れるということが頻繁に起こるようになってきます。トイレが壊され、使えなくなります。
 この段階では、生徒の喫煙も日常化しています。たばこも、最初は教師の見えないところ、つまり校舎の陰とかトイレの中で隠れて吸っていますが、だんだんエスカレートして、教師の前で平気で吸ったりします。
 この段階以降を基本的に荒れた学校と私たちは認識しております。
 最後の第五段階になりますと、教員が暴力を振るわれるというケースが出てきます。ある教師が、授業中なのに校庭でたむろし、たばこを吸っている生徒たちを注意します。すると、その生徒たちが逆上して職員室に押しかけてきて、先公出てこいやと大声を上げて暴れるといった事態も生じています。廊下に設置してある消火器を教室や廊下にばらまくなど、学校の機能も麻痺状態になります」
 この臨場感にみち、かつ、整然たる証言に、〈実際、委員会での委員の態度は私語をしたり、あまり良いものでないが、佐藤先生の証言が始まると、咳ひとつなく静まり返った。学校の「荒廃の五段階」のくだりでは大半の議員がメモを取ってゐた〉(神社本庁機関紙『神社新報』平成十年四月十三日号。「小山孝雄議員に聴く」)という。
 そして、小山議員が、「荒れていく模様が非常にリアルに伝わってまいるわけでございますけれども、続いて参考人にお尋ねしますが、そういう悪さをしたりあるいは暴力を振るう生徒を先生が制止するということは難しいんでしょうか。どうですか」の質問に対して、佐藤教諭は、次の如く答えた。
「毅然と注意する先生もいるんですが、注意をすると生徒たちはますます逆上して、殴られたりします。教員の側は、そういう状況でも生徒に手を出すわけにはいきません。手を出したら、その状況がどうであろうとマスコミに非難され、教育委員会に処分されるおそれがあります。
 ですから、十人ぐらいで生徒が暴れて向かってくると、教員は殴られるままで抵抗することもできません。しかも、けがをしても、職員会議で教員の中から、注意の仕方が悪かったからかえって怒らせてしまったんだろうとか、生徒の心を理解できなかったことが問題なんだ、被害届を出すことは教育の敗北だということが延々と話し合われまして、注意した教員が悪いということになります。警察に被害届を出すことはまずありません」
 この証言は、荒れる中学校の出現は、教師の間に子供の人権尊重の美名のもと校則無視と道徳教育反対の風潮によって、足並みを揃えて生徒指導を遂行しようという意志統一が出来がたいことに起因することを物語っている。
 そして、この証言が実態に則してのものであることを、佐藤教諭が自身の体験談を披露した。
「一年生の入学式後のホームルーム中、近くで上級生が騒いでいたので、自分の教室に帰りなさいと注意したわけです。
 そうしたらその生徒たちが私の教室に押しかけてきて、佐藤出てこいや、偉そうなことを言うな、やってやろうかとどなってきました。廊下に出たところ、生徒たちが私を取り囲んで殴ったりけったりしてくるわけです。彼らは教員が手を出せないことをよく知っていますから、まさにやりたい放題です。結局、私は逃げるしかありませんでした。
 もし手を出していたら教員を続けることはできなかったと思います。しかし、逃げることで教員としての権威は台なしです。荒れた生徒たちはますます増長し、入学したての一年生は教師に失望し、以後相談に来なくなり、一層生徒指導は難しくなりました。暴力を振るったぐらいでは学校が生徒を処分するということはとてもできません」
 こうした荒れる中学校の体験報告に国会議員は大きな衝撃を受けた。
 
小山議員、広島県の「反天皇制学習」の現地調査を要求
 
 小山議員は、佐藤泰典教諭の証言にみる「荒れる中学生」を生む土壌には「道徳」教育の無視や軽視が存在するとして、文部省に対して教育行政が形骸化している実態を紹介して追及された。その実態とは、
「北海道から沖縄まで、私が気安くしている方にお願いをして、もしあなたのところに中学生がいらっしゃったら、ことし一年の時間割表を送ってもらえませんかと。どんなことになっているのかと思って調べてみました。三十四校挙がってまいりまして、そのうち何と九校が道徳の時間がゼロでございました(文部省へ提示済み)」
 この九校の実態について辻村哲夫初中教育局長の答弁は、
「関係の市町村の教育委員会に確認をいたしましたところ、御指摘の学校につきましてはいずれも教育計画上は道徳の時間を設置している」
 という。即ち、学校管理規則に基づいて提出される時間割表という公文書に虚偽の報告があるというわけで、辻村局長によると、「刑法上の虚偽公文書作成罪に該当する」のである。
 さらに、小山議員は、核心部分に言及された。それは、「道徳」の時間を「人権」と表記されている例を示して、次の如く質問をされた。それは、広島県教育界の徹底した「反天皇制学習」の糾弾であった。
 
 小山孝雄議員 私は、人権教育がいけないとか人権が大事だということを生徒たちに教えることをとやかく申し上げているのではありません。そんなことは当然のことであります。こういう教科はないということを確認したかったまでであります。
 学習指導要領には道徳教育の内容を具体的に細かく記載しております。そして、各学年ごとに教育内容をまとめて、「日本人としての自覚をもって国を愛し、国家の発展に尽くすとともに、優れた伝統の継承と新しい文化の創造に役立つように努める」と、実に立派なことが書いてあります。
 実際に行われているのは、ここに広島県の公立学校で広く使われております「人権学習指導案」という資料がございます。
 この中にはこんなふうにも書いてあります。一番の眼目、この人権学習の目標、天皇制(君が代、日の丸、元号)は差別を助長してきたものであることを生徒に理解させ、生き方を考えさせると学習のねらいが説明されているんです。国旗、日の丸を焼き捨てた人の意見陳述書を使用して、天皇や日の丸、元号が差別を生んでいると、こう教えております。
 学習指導要領の特別活動の中には、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」と、こうありますが、このようなことを実際に教室で教えるということは学習指導要領違反となると思いますが、いかがですか。
 辻村哲夫・文部省初中局長 ただいまのような指導は、学習指導要領の指示に反しているというふうに考えます。
 小山議員 続いて二、三紹介いたしますと、卒業式を迎える生徒全員に、人権学習で学んだことを生かし、西暦だけの卒業証書を希望する人は担任に早く申し出るようにと文書で呼びかけている資料もございます。そしてまた、中には、私は元号で欲しいと申し出た生徒に対しては、おまえは一年間なにを学んできたのかといってしかりつけたという事実もあります。
 町村信孝文相 広島県の教育のいろいろな、今言われた括弧つき人権教育の実態につきましては、既にいろいろなマスコミ等でも報道されているところでありまして、文部省としても重大な関心を持って、今広島県の教育委員会の方にその事実関係を調査の上回答ありたいということを申し入れている、指導を行っているところであります。したがって、目下、広島県教育委員会がその実態を調査しているもの、こう私は理解をしておりまして、その結果を待ちまして、またしかるべき指導、助言を行っていきたい、かように考えております。
 小山議員 教育委員会に調査を命じている、お願いをしているということでありますが、この前も文部大臣は中学校現場に足を踏み入れられて視察をなさったように、またひどい災害があれば国土庁長官はすぐ飛んでいきますよ、やっぱりその現場を見るということを文部行政の中に取り入れていただきたい。県教育委員会そして市教育委員会という二段三段の壁があるところでは、なかなか本当の実情というのはとらまえられないのじゃないでしょうか。ぜひこれはお願いを申し上げます(「広島へ行け」と叫ぶ者あり)。
 今、委員の方から広島へ行けという発言もありましたけれども、いかがですか。
 
 以上の如く、小山議員は、筆者が本誌で三回にわたって紹介した「反天皇制学習」の実態をも含めて、全国的な視野に立脚して憂うべき教育の現況を指摘された。そして、「解放区」化した広島県教育界の実態を文部省は調査に行くべきであると強調された。
 これに対して、町村文部大臣は、教育行政の地方分権主義を盾にしての答弁をされたが、予算委員会の空気はそうした官僚式答弁を拒否するものであった。その理由は、『産経新聞』(四月二日付)の「主張」で『もはや学校とはいえない』と題して、「参考人として招かれた広島県福山市の佐藤泰典教諭は、元教育長までが国旗掲揚・国歌斉唱にブレーキをかける文書を出すなど、反日の丸・君が代$Fの強い同県教育界で、教育正常化に向けて頑張っている数少ない先生の一人だ。その佐藤教諭が前任校で体験したいじめや校内暴力、授業崩壊の実態はわれわれの想像を超えていた」からである。
 こうした異常な広島県教育界の実態調査を教育行政の法理論をチラツカセて文部省が回避しようとしても納得を得ることは出来ない状態であった。
 
 国会証言に衝撃! 福山市立加茂中学校でPTA臨時総会を開催
 
 佐藤泰典教諭の体験証言と小山議員の「反天皇制学習」の追及は、四月一日の午前中に実施された。ところが、同日の参議院予算委員会の終了時刻に新社会党の栗原君子議員は質問の冒頭で、
「私の出身県でございます広島県の教育のことが今朝ほど取り上げられました。これだけ重要なことが校内で何一つ議論していない中でいきなり国会に出されているということで、職場の人も含めまして大変驚いているという報告が入ってまいりました。
 彼は、年休は出しているようではございますけれど、広島の教育の現場では、県外に旅行する場合、教育委員会に届け出ることになっておりますが、全く上司も知らない状況であった、こういったこともございます」
 佐藤教諭が服務規律違反をしていると、加茂中学校内部よりの告発を受けて紹介をしている。県外へ二泊三日以上出張する折には県教委に届ける義務が存在するとしても、それは、教諭等の場合には学校長に申告すれば済む筈である。
 そこで、小山議員側にその辺の事情を伺ったところ、年休は提出しているし、国会出席が決定した段階で佐藤教諭は電話で岩本信幸校長に三月三十日了解を求めている筈との回答に接した。
 さて、加茂中学校と同校PTA(会長・過田(すぎた)悟氏)は、大きな衝撃を受けたとみえて活発な行動が展開された。四月六日付でPTA臨時総会を四月十三日(月)午後七時三十分より加茂中学校体育館で開催されることになったとの「案内」が保護者に渡された。その「案内」には、「一九九八年度から規約改正をして新選出方法で役員体制の確立をし(たいので)規約改正の承認をいただき(たい)」という議案と、
「四月一日に参議院予算委員会の集中審議の場において自民党の小山孝雄議員の要請で加茂中学校佐藤泰典教諭が参考人として教育現場の実態を説明されました。その内容は、佐藤先生がこれまで体験されたことや今日の全国的状況を話されたことで、現在在職されている加茂中学校の実態ではないということですが、地域や保護者の方々にご心配や不安感・誤解等あたえているのが現状です」
「そこで、このことにつきまして臨時総会の場において岩本学校長より佐藤先生が参議院予算委員会にて参考人として説明することになった経緯と内容の真意等について話をさせて頂きます」
 というものであった。
 一方、地元で唯一の日刊紙『大陽新聞』(福山市西神島町、大陽新聞社)は、五月七日、八日、九日付と、一面全部を使用して佐藤証言を掲載したので市民に周知されていった。
 又、福山市民の間には、偏向教育を憂慮する青年たちを中心とするグループ化が進行していた。そして、三月二十二日には、「歪められた学校教育から子供を救おう」を合言葉に「教育正常化講演会」(主催・広島県の教育を考える福山市民の会)が七百人を集めて開催されていた。このときの講演は、東京大学教授藤岡信勝氏が「歴史教科書をめぐって」、埼玉大学教授長谷川三千子氏が「国旗・国歌をめぐって」であった。
 この「市民の会」関係者や加茂中学校の保護者の方々の中にも臨時総会で佐藤教諭に対して、どのような発言が出るのかを憂慮する声がたかまった。
 臨時総会には、二百人程が出席した。校長とPTA会長より、佐藤教諭の国会証言は教育の荒廃を立て直すためのもので加茂中学の実態を紹介したものではないと説明があった。佐藤教諭批判派よりは、「本人から説明がないとわからない」「加茂中学が悪く言われている」「なぜ本人が出てきて言わないのか」との発言があった。
 学校長とPTA会長の説明のあと、四月一日の国会のビデオの上映があった。しかし、佐藤教諭の証言が終了すると、教員が走って行ってビデオを止めてしまった。小山議員の広島県教育界の「反天皇制学習」糾弾の発言を保護者に知られることを阻止したのであろう。
 佐藤教諭批判派は、PTA総会(五月二十九日金曜日の授業参観後開催)で一挙に佐藤教諭を糾弾しようと画策した。
 それは、「加茂中学校PTAの見解――四月一日の佐藤教諭による参議院予算委員会での証言について――」を「一九九八年五月二九日福山市立加茂中学校PTA一九九八年度総会決議として」可決しようとして、執行部より総会に提出された。その「見解」は、
「加茂中学校の生徒や保護者、さらには広く地域住民の皆さんの中に大きな混乱が持ち込まれたことの直接的かつ唯一の原因は、四月一日の国会証言にあります」
「佐藤教諭が四月一三日の臨時総会を欠席したことは、大変残念です」
 と佐藤教諭を糾弾している。さらに、
『週刊新潮』(四月十六日号)の特集「『教育崩壊』を国会証言した中学教師をつるし上げる地元の『圧力』」の記事に対してもショックを受けたとみえて、「一部週刊誌などに『PTA役員が、佐藤教諭を寄ってたかってつるし上げている』と報道されたことは、全く事実とは違う内容のものです。こうした報道は、今日まで真剣に取り組んできたPTA活動を破壊するものであり、さらに地域の混乱を助長する結果を招いていることに、強い怒りを覚えます」
 と憤慨している。
 この決議に関する討論の進行過程で、現在、マスコミで報道されている学習指導要領違反的な事例は加茂中学校には存在しないのかの質問に対して、学校長はそうした事例が存在する旨の答弁を行った。
 そこで、佐藤教諭糾弾を続行していくとヤブヘビになりかねないことになり、かつ、予定時間も過ぎ、結果は不採択で終了してしまった。
 
2、文部省の反日教育調査に抵抗する広島県教育界
 
 文部省は、『産経新聞』(平成九年八月三十一日)と『正論』(平成九年十月号)による平成四年二月二十八日発出の菅川健二広島県教育長の「反日の丸・君が代」確認書に起因する「反天皇制学習」の実態が紹介されたこと等により、平成九年九月二十二日に広島県教育長に対して次の如き指導を行った。
(1)本件のような文書を民間運動団体(上杉注・県高教組等々)に提出することは、教育行政の主体性を損なう恐れがあり、適切でなく、また、文書の内容にも問題があり、遺憾である。
(2)「国旗・国歌の取扱い」は学習指導要領に基づいて適切に行われるべき事柄である旨を、市町村教育委員会、学校に徹底し、各学校における「国旗・国歌の取扱い」が学習指導要領に基づいて適切に行われるよう指導いただきたい。
(県議会・文教委員会で平成九年十二月十六日に石橋良三県議の質問に対して、指導課長が答弁し、平成十年一月十九日の委員会に文書化して提出したもの)
 しかし、こうした文部省の指導に対して県教育委員会はその実施は不可能と判断し、いわゆる面従腹背の方針を固めたと推測される。この方針は、県教委――地教委――校長の段階でも同様であった。
 ところが、『産経新聞』及び『正論』の告発は続行され、自由民主党の教育問題連絡協議会の活動も活発化し、文部省の指導も強化されるに従って、面従腹背の方針も動揺してきたことは事実ではあるが、実態は依然として深刻である。
 まず県教委は、文部省の指導を形骸化する国旗・国歌への「木曾・新見解」を平成九年十月十七日(金)の県議会・文教委員会での石橋良三議員の質問に答えるかたちで発表した。その木曾功県教育長の「新見解」は、『正論』三月号で紹介した如く、「広島県の実情を踏まえ、国旗・国歌に関する学習指導要領に定められた内容であるとともに、過去の歴史的経緯をあわせ教育内容とすることが適切であると考えている」というものである。これでは、「菅川見解」と全く同工異曲である。
 県教委にしてこの態度であるからして、福山市のことし二月十三日の臨時の小中学校長会で木曾県教育長より、「今年度は日の丸を掲揚して欲しい」と発言しても、卒業式で日の丸は「三脚設置」方式であって、国歌斉唱問題は各校で全く無視された。
 こうした事態に対して、自民党の教育問題連絡協議会が三月十八日に開催された。その折に、中川昭一議員は、
「県教委自体に問題がある。従って、県教委の報告を文部省が聞いて提出する報告書にウソがある。先日、広島県に行った折に聞いた話とは実情が全く違う。文部省は現地に入って直接調べるべきである」
 と強く主張された。
 そして、
「日の丸が掲揚されたといっても三脚でたてたりして、校旗に隠れてほとんど見えないような掲揚であったり、校長の机にお子様ランチのように旗をたてたりしたもの、これで国旗掲揚率に入っている」「国旗は備品なのか、否か。国旗購入代金を校長がポケットマネーで買っている」(文部省答弁・国旗は学校の必要備品である)
 と広島県の実情報告をされた。また、板垣正議員は、「文部省の発言は数字の調査だけで当てにならない」「菅川文書が根っこにある。それを破棄しない限り、抜本的解決にはならない」と述べた。玉沢徳一郎議員も、「党本部として視察をすべきである」と発言し、これを受けて、奥野会長からは、「文部省に対して広島県に行き現地調査報告をして欲しい。そして、自民党広島県連幹部より三月三十一日に面談の要請があるので、その上で事後の対策をとる」旨の発言があった。
 かくして三月三十一日に教育問題連絡協議会が、自民党広島県連の代表を迎えて開催された。県連よりは、山田利明県連副会長・新田篤実県議会自民党議員団会長・平田修己県連政調会長・宮野井利明県議会文教委員長の四人が出席した。
 広島県連は、県教委が三月二十五日に作成した「1 国旗・国歌問題について」「2 広島県の教育改革について」の「資料」を持参して説明した。それは、高校の入試の総合選抜制を廃止し、単独選抜制に切換えた。当初は混乱が予想されたが、大勢では問題なく実施された。次に、国旗・国歌問題では、国旗問題では、「三脚設置」方式に問題があると考えている。又、国歌問題では、実施率が低いのでさらに積極的に取り組みたいと富野井県議が説明した。
 そして、中川秀直代議士(東広島市選出)より、「県選出の国会議員も集まり意志統一している。県選出国会議員と奥野調査会の力をあわせて、あらゆる方向から(県連等を)支えていきたい。奥野会長の意見のとおり文部省の調査をお願いする」との発言があった。なお主任手当・広島県同和教育研究協議会等についても論議された。
 こうした教育問題連絡協議会の半年間にわたる文部省と広島県連との討議の中で、自民党国会議員団による現地調査の前に文部省による現地調査をという空気が高まった。これを決定づけたのが、四月一日の佐藤教諭証言と小山議員の質問であったことはいうまでもない。
 文部省は四月二十七日(月)、二十八日(火)と徳重眞光小学校課長ら四人を広島県に派遣し、二十七日には県教委本庁で、二十八日には福山市の県福山教育事務所にて池口義人市教育長らより直接事情を聴取した。この調査は、地方教育行政法に定められている文部大臣による「指導、助言および援助」のためで、実際に行われるのは極めて異例であるという。
 その調査事項は、
I 学校における教育課程の編成及び実施状況等について
(1)国旗・国歌関係
(2)人権学習の内容について
(3)道徳の時間の実情について
(4)国語の時間割について
(5)小学校の音楽での国歌「君が代」の指導
(6)授業時数及び単位時間について
(7)指導要録等
II 学校の管理運営の状況等について
(1)教員の勤務時間管理について
(2)主任の命課について(命課時期、人選)
 こうした文部省調査の入る以前に石橋良三議員は、県議会・文教委員会で平成九年十二月十六日に「菅川文書」について十三項目にわたって詳細な質問を行った。また、ことし三月九日には、主任制とその主任手当についても質問をされている。さらに、四月十七日には、四月一日の佐藤泰典教諭の国会証言に基づいて道徳教育の現状をも追及された。
 こうした石橋県議の質問に答弁した偏向教育の実態と文部省調査に回答した実態が大きく相違していた。そして、その偏向教育の実態の全体像と真相は未だ解明されていないという。即ち、広島県教育界の教育正常化への抵抗は続行されているのである。
 しかしながら、いわゆる「広島解放区」が落日に向かっていることは間違いあるまい。
 
「道徳なし」県議会答弁は5校、文部省調査で19校、再調査で43校
 
 さて、小中学校の「道徳」の授業の実態について、『正論』五月号で紹介した如くである。この点について、石橋良三県議は、ことし四月十七日に「道徳」の授業の実態について、〈道徳の授業が人権というタイトルの時間割に切りかえられている、あるいは道徳の時間そのものが時間割から削除されている〉というマスコミ報道について質問した。
 これに対して、県教委・指導課長は、「各学校が提出する教育課程の承認願いは、全部、道徳となっているので問題ないし、各市町村の教育委員会は、そのようにしていたと思う。しかし、この状況を踏まえて、各学校における時間割について調査したところ、福山市に四校、吉和村に一校の計五校に該当があった」と答弁した。
 この内訳は、「道徳」を「人権」と名称変更するもの四校、「道徳」の時間が全くない学校が福山市内に一校存在したというものであった。
 ところが、文部省調査の四月二十七日に県教委の報告数は十九校になっていた。しかし、文部省はその報告に疑念を持ち再調査を要求した結果、県教委は、〈学校の報告だけに頼らず、独自に児童・生徒の生徒手帳などで時間割を調べたところ、広島市内の二十一校をはじめ、福山市、尾道市、因島市など四市五町一村の小・中学校四十三校で道徳の授業がなかったことが判明したという〉(『産経新聞』五月二十日付)。この結果について、県教委・内田信正教育部長は、県議会・文教委員会で五月十九日に「文部省への調査結果を訂正し、おわびする」と報告した。
 
福山市・国歌斉唱は皆無、音楽での「君が代」指導は二校
 
 福山市における平成九年度卒業式、平成十年度入学式の国旗・国歌問題をみると、国旗掲揚は、小中学校共に前年度は三〇%台であったのが百%に改善された。三脚設置等の問題点はあるが、一応の前進である。しかし、国歌斉唱は前年度同様に零%である。県全体としても三〇%台である。
 又、福山市の小学校で音楽の授業で国歌「君が代」の指導しているのは、六十三校中で二校のみという音楽教師の指導要領無視の実態が明白になった。
 国旗・国歌問題以外では、『正論』五月号で指摘した教科名「国語」を「日本語」に改変していたのは、駅家中学校の一校のみであることが判明した。
 また学習指導要領が「授業の一単位時間は五十分を常例とし」とあるのに理由もなく四十五分とし、しかも、年間総授業時数(一〇五〇時間)の確保の上で問題のある学校が、福山市内一校を含む六中学校(福山市1校。三次市1校。芸北町1校。加計1校。広島市2校)が発見されたが、広島市内の実情は不明とのことである。この件は、平成十年度には是正したという。
 なお、指導要領の形骸化が徹底していることも判明した。これは、広島県同和教育研究脇議会の強力な指導による。
 
「反日教育」の指令塔・広島県同和教育研究協議会の実態究明されず
 
『正論』五月号で広島県同和教育研究協議会(下部組織として福山市同和教育研究協議会等の郡・市支部的な存在がある)が広島県教職員組合と共に、学習指導要領の絶対的拒否方針を中核とする教育全般に対する方針を明示して、広島県教育界の反日教育の指令塔的な存在として活動している状況を紹介した。
 しかし、文部省調査は、広同教(福同教)の運動方針の成果である「人権学習の内容について」と「指導要録等」の実態の調査に終始して、肝心の広同教(福同教)の実態調査までには及ばなかった。
 広島県同和教育研究協議会(広同教)の平成九年度の活動方針は、〈「臨時教育審議会」答申・「新学習指導要領」など教育に対する反動化と弾圧に対決し、民主的な教育内容を創造していく〉としている。
 この運動のための予算要望書をみると、現在までに既に多大な経済支援を県・郡市の段階で獲得しているのに、さらに多額の経済支援を要望していて、その八項目の「広島県同和教育研究協議会に対する助成」要求には、
(1)広同教事務局に専任八名(就学前1名、小学校2名、中学校2名、高等学校1名、障害児学校1名、事務1名)を置き、その活動を保障されたい。
(2)郡市同教事務局に専任二名(学校関係1名、事務1名)を置き、その活動を保障されたい。
(3)地区高同教事務局に専任二名(学校関係1名、事務1名)を置き、その活動を保障されたい。
 等々の助成金を要望している。
 平成九年度広島県同和教育関係予算は六九八、二〇六、〇〇〇円である。そして、こうした予算を背景として同和教育加配教員が配置され、小中学校の同和教育主担者は福山市に十二名等全県で百十九名がいる。高校の推進教員は全県で六名存在する。
 この構成メンバーであるが、広島市議・児玉光禎著『広島県教育の問題点』(清風社刊)によると、福同教の場合、〈構成員は、福山市教育委員会、公民館、市内の保育所・幼稚園・小学校・中学校であり、会長は中学校長会会長が就任し、副会長には小学校長会会長と現場教師の代表、市教委からの三名が就きます。いずれも福山市の公教育を代表する人ばかりです〉という。そして、平成九年度の予算書をみると収入の全額二百三十万円が福山市よりの補助金とあるから開いた口が塞がらない。
 こうした団体が公然と「反天皇制学習」と「学習指導要領」の形骸化を方針として、実効をあげているのである。
 文部省調査によると、福山市の中学校二十七校の平成九年度の指導要録の記入状態は、「各教科の学習の記録」のうち、「観点別学習状況」の未記入が十四校、「所見」の未記入が二十校あった。また、「指導上参考となる諸事項」のうち、「所見」の未記入が十九校、「指導上参考となる諸事項」の未記入が十八校であった。
 文部省は、広同教等の組織・方針・財政等について徹底的な調査をして県教委に勧告しない限り、反日教育の「解放区」広島県教育界の正常化は期待できない。
 
3、主任制は組合のドル箱
 
 昭和五十年に学校教育法施行規則の一部を改正する省令により「主任」が制度化され、翌五十一年(一九七六年)より主任制が導入されてくる。
 この主任制導入に反対する闘争に屈服した県教委は広島県高教組と『協定』『覚え書』を昭和五十四年(一九七九年)四月二十八日に調印している。
 その「協定」では、〈1、広島県教育委員会は、主任等の命免に際して、民主的手続きを経ることを明文化する〉、〈2、広島県高等学校教職員組合は、主任制をめぐる命免阻止・実績報告阻止等の闘争を凍結する〉とした。
 そして、主任制導入の具体的方法を「覚え書」とした。それは、
1、いわゆる主任手当の拡大については、国に対して積極的に要請する意志はない。
2、主任等に限定した研修会に職務命令による参加は強制しない。
3、主任等の命免は履歴事項としない。
4、主任等は中間管理職ではなく、職務命令は発し得ない。また、授業時間の軽減のための措置は講じない。
5、主任等の命免については、校長は地域や学校の実態を考慮するとともに、職員会議の機能を生かし所属職員の意向を十分尊重して協議して行う。
6、教育に機能しない一人一役制・輪番制の校務運営をなくし、秩序ある学校態勢を確立する(この項目のみが県教委の希望事項であるが、全く遵守されていない)。
 この「協定」「覚え書」の外に、昭和五十四年五月十一日公布の『県立学校における主任等の命免等の実施に関する実施規程』も組合の要求通りに作成され、「主任の職務内容」に関する規程は存在しない。即ち、「連絡調整及び指導・助言に当たる」文言がないのである。
 この「協定」「覚え書」「実施規程」が策定されて以来、主任制問題のみならず校務全体が組合の管理下におかれることになってくる。その恐るべき実態を紹介しよう。
 
スト賛成者のみ主任に任命
 
 広島県高教組は、主任制を無化し、かつ、組合の組織拡大と財源にしている。それは、『たたかう広高教組・一九九六年版』の「第7章 主任制闘争」によると、主任になる有資格条件として、組合が認定する条件とは、
 ◇非組合員、手当拠出拒否者を除外する。
 ◇ストライキ非突入者を除外する。
 ◇スト突入署名非署名者を除外する。
 ◇主任手当拠出決意書非署名者を除外する。
 ◇前年度の命免主任の経験者を除外する。
 これでは、主任は全員が違法行為の是認者ばかりということになる。そして、公金として支出される主任手当(一日に二百円、月額五千円)はすべて高教組の手中に入り、「反日教育」の財源となるのであろう。この主任手当の拠出金は、高教組で年額五千万円程になる。県教組では主任手当が年額一億五千万円であるからして、最低で四分の一程度は組合に拠出されていると推定される。
 この高教組の違法行為是認者を主任として学校長に認定させるために、学校長と分会長との間に「主任制に関わる協定書」を約定する。それは、
1、本校における校務分掌の決定及び主任の命免は、職員会議の議を経て行う。
2、本校における主任とは、各係のうち○○係をもって当てることとし、履歴事項とはしない。
3、本校における主任手当(特殊業務手当)は、毎月一括して○○に手渡されるものとする。
 この「協定書」を結ぶことにより、学校長は、職員会議で合意を得られない限り主任は任命できない。即ち、主任任命は組合の意のままということになる。
 こうした非常識な「協定書」に学校長は何故に同意するかというと、それは、『県立学校における主任等の命免等の実施に関する実施規程』の「4条 校長は、管理規則15条9項の規定により主任等を命ずるに当っては、職員会議の討議などを経て行なうものとする」に拘束されるからである。この「協定書」獲得分会は、平成九年度で百四十三分会中百四十二分会である。即ち、全県高校長の九九%が提出するという惨状である。
 
新任管理職は組合に忠誠表明書提出
 
 広島県の高校における主任制闘争は全国に類例をみないものであるが、管理職闘争も主任制闘争に比肩する。
『第45回 広高教組定期大会議案』の「一九九六年度 たたかいの総括(案)」をみると、「管理職人事について」は、新任管理職は、校長四十六人、教頭五十五人、部主事十八人、事務長三十六人である。このうち非組合員よりの昇任者は、教頭一人、部主事一人、事務長一人のみである。スト突入賛成に非署名者は教頭九人、部主事一人、事務主任二人であり、この非署名者の中には教育行政機関よりの転出者がいるのであろう。
 そして、新任・転任管理職に対しては、組合への忠誠表明書の第一として、「1、従来からの労使慣行を守る」「2、不当労働行為は行なわない」という「確認書」を獲得することとしている。この「確認書」を転任・新任の管理職百五十九人中百五十七人より獲得している。
 特に、注目すべきことは、「非組出身・スト突入賛成に非署名・行政職出身の管理職」に対しては、徹底的な糾弾と反省を求めている。それは、〈これまで組合運動に背を向け、時には妨害するような行動をとってきたことに対する反省書と、今後は組合に協力する旨の決意書を書かせる取り組み〉を実施する、というものである。この「反省書」「決意書」を提出した者は、三十九人中三十八人である。
 さらに、こうした非組者やスト突入賛成に非署名者を管理職に具申した校長に対しても「反省書」を提出させることにしている。この「反省書」の提出校長は八人中七人である。
 以上のような主任制闘争と管理職闘争については、文部省調査は及ばなかった。
 
4、「解放区」広島県教育界に未来はあるか
 
 文部省調査を受けた広島県教育委員会は、ことし五月二十九日の臨時の県内市町村教育長会議で文部省から是正内容について最低三年間定期的に報告を求められているので、〈市町村と県教委が密接に連携して、法令・学習指導要領に反している点を是正していきたい〉と決意を表明した。又、福山市同和教育研究協議会も本年度の活動方針より昨年度はあった「反日の丸、君が代」の文言が削除されたことが六月三日の福山市議会・文教経済委員会で報告された。
 そして六月十二日には、県教委(平田嘉三委員長)は、木曾功県教育長を文書訓告処分にし、その他十七人を厳重注意処分にし、福山市教委(門田峻徳委員長)は、池口義人市教育長を文書訓告処分にし、その他二人を厳重注意処分とした。
 しかし、広島県教組は、「第七十回広教組定期大会議案」(六月三日〜四日の大会)によると、主任制反対闘争推進の手段としても「職員会議を学校運営の最高決議機関」とする。また、「日の丸・君が代」強制反対のとりくみを全組合員・全分会のものとすると従来の運動方針の堅持を示している。
 そこで、こうした異常な広島県の教育体質を是正する道は、県教委自体が従来の非常識な教育方針・教育体制を是正することである。
 それは、第一に、「菅川文書」を完全に無化する国旗・国歌に対する見解を表明することである。それは、平成九年十月十七日の県議会での『木曾・新見解』では駄目であって、「木曾・新見解」の冒頭部分のみを示せば充分である。即ち「国旗・国歌の教育は、学習指導要領に基づいて実施するものとする」との見解を県議会で表明し、県立学校及び地方教育委員会に通達すればよいのである。
 第二に、学校の管理運営が学校長の責任で遂行されていない現状を打破するためにも、「県立学校における主任等の命免等に関する実施規程」に、「主任の職務内容」を明記し、かつ、「4条 校長は管理規則15条9項の規定により主任等を命ずるに当っては、職員会議の討議などを経て行うものとする」を全文削除すべきである。これは、単に、主任制の問題のみならず職員会議が教員組合により壟断されている現状を打破するために必要である。
 第三に、県教委―地教委や学校長が発表した「見解」や「協定書」「確認書」のうち、法に違反したり、法の主旨に則応しないもの、教育全体の立場よりみて非常識なものには、拘束されないことと、今後、一切こうした教育職にあるまじき行為を行わないことを、県議会で表明し、県立学校及び地方教育事務所に通達すべきである。即ち、「教育職の遵法声明」を発すべきときである。
 この三点は、教員組合や民間団体と協議する必要性が皆無であるから県教委の一存で決することができる。
 この英断を実施しうるのは、今の機会を失しては再び来ないであろう。その理由は、『産経新聞』も「教育再興」シリーズの中で「広島の教育」(六月四日〜六月十六日まで十二回連載)を特集し、自民党の教育問題連絡協議会も最大の努力をされているからである。
 最後に一言申し添えると、広島から聞こえてくる発言の中には、原爆被害地だからという言葉がある。教員組合等の運動方針にも同様の文言がある。原爆被害地だから「反天皇制学習」が許され、スト突入賛成署名者でなければ管理職になれないということは、広島県は無法天国ということである。こんな教育を原爆被害の在天の霊はお望みであろうか。
 同じ原爆被害県の長崎県議会は、昭和五十九年三月十四日に「教育基本法の改正を求める請願書」を可決している。その「請願」の内容は、基本法に「伝統の尊重」「愛国心の育成」「自衛心の涵養」の三点を明記することを中心として抜本的な改正を要望するものである。
 この要望は、明治以来の第一次教育改革、戦後の第二次教育改革に続いて、戦後教育を超克する第三次教育改革の根幹となるものであって、新教育基本法の提唱である。この構想は、教育基本法制定三十周年の昭和五十二年八月の伊勢市における日本教師会(会長・田中卓皇大文学部長)が提案したものである。このことは拙著『教育基本法改正論』(日本教師会叢書。昭和五十五年二月一日刊)や『教育基本法の問題点』(善本社。同五十九年四月二十九日刊)に詳記した如くである。
 このように、被爆地長崎県は早くから第三次教育改革の戦列に加わっているのである。広島県もいつまでも東京裁判史観に拘泥することなく、『産経新聞』(五月二十三日付)の「主張」に示す「広島の教育 戦後半世紀の歪みを正せ」の如く戦後教育の正常化を実現していただきたい。また、県民各位は、福山市立加茂中学佐藤泰典教諭を支援されることを切望する。(平成十年六月十四日)
◇上杉 千年(うえすぎ ちとし)
1927年生まれ。
国学院大学史学科卒業。
岐阜県立斐太高校、同高山高校の社会科教諭を務め現在、歴史教科書研究家。


 
 
 
 
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