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1998年5月号 正論
拝啓 広島県教育委員会殿 第3弾
反「日の丸・君が代」教育の牙城で今
歴史教科書研究家●うえすぎ・ちとし 上杉千年
 
一、キレル生徒とキレタ中学校長会
 
 広島県教育委員会は、「日の丸・君が代」批判を通じて「反天皇制教育」を推進することを広島県教育の基本理念とするという菅川健二県教育長(現・参議院議員)による「菅川確認書」「二・二八文書」(平成四年二月二十八日発出)を発表した。
 これを契機として広島県教育界は、「反天皇制教育」(福山市の教育用語)が地教委――学校長の指導のもとに公然として実施されてきた。この実態を『正論』(平成九年十月号)に「拝啓 広島県教育委員会殿」と題して掲載した。そして、第二弾を平成十年三月号に執筆をした。
 また、筆者(上杉)は二月十一日の「建国記念の日」に広島市にて広島県教育の実態≠ノついて講演を行った。その折の市民の反応は、初めて「菅川確認書」を知ったが県教委までが「日の丸・君が代」反対の旗振りをしているとはと絶望的な表情をされる方があった。
 小学生の子を持っているという大上正邦氏(広島市安佐南区在住)は、昨年五月二十九日の全日本中学校長会定例総会終了後の「皇居参観と天皇拝謁」に関して、広島県教職員組合等の抗議があると五月十六日の中学校長会で全校長が「皇居参観並びに天皇への面会」拒否を決定したことについて、中学校長会の不見識にアキレタと話された。そして、日教組等に抗議されれば簡単に全校長が屈服してしまった点について、格別な憂慮を示された。
「荒れる中学校」「キレル中学生」と呼称される程に、今日の中学校には生徒指導問題が山積している。その生徒指導の先頭に立つべき校長先生が全く主体性がなく大勢順応主義では教師としての資格がないということである。
 このように、非常識な抗議行動に走る教員組合等と、そうした勢力に全員一致で恭順する校長会によって教育を受ける生徒・児童の被害は計り知れない。
 
二、現金三三〇〇万円強盗事件と広島県教組の食言
 
 昨年十二月十日午前九時五分頃、福山市立緑丘小学校入り口付近において、同校教職員のボーナス約三千三百万円が強奪される事件が発生した。
 この事件は、刑事事件として全国に報道されたが、発生の原因には広島県教職員組合のナンデモ反対≠ニいう闘争方針が大きく関与していたのである。
『広島 教育時報』(広島県教職員組合刊)によると、〈事件発生後、木曽教育長は記者団の質問に、「私が宮城県の総務課長をしていた当時の話ですが、組合(全教)の反対で給与振込ができなかった」と答弁したことから、一部マスコミでは、「広教組が給与振込に反対したことが、今回の事件の原因の一つである」という報道となりました。〉そこで、〈十五日、県教委総務課長と拡大窓口を開催し、「緑丘小現金強奪事件」に伴う県教委の対応について、強く抗議しました。特に、「組合の反対で、給与振込が実現していない」との木曽教育長発言の不当性について厳しく追及しました。〉(号外・四三四号。十二月十六日刊)としている。
 この「号外」が示す、広教組の県教委への抗議は食言である。つまり『広島教育時報』の「全組合員版」(平成九年九月一日刊)には、「学校現場には『給与の銀行口座振込』は受け入れられない」と題する討議資料があり、明白であるからだ。
 広島県は、給与等を「安全・便利・確実」の視点に立脚して金融機関への振込制度を、〈七六年に・・・五者共闘に提示されました。五者共闘の導入反対のたたかいによって棚上げの状態となっていましたが、・・・九三年が明けてすぐ県教委は、「導入したい」と広教組の同意を求めてきました。しかし、私たちのねばり強い反対署名の運動によって撤回させていきました。・・・そして、九六年六月、県人事委員会規則(学校を除く)を改悪し、九六年六月分賃金より、県職員(学校を除く)において「給与の銀行口座振込」を実施しました。〉しかし、〈広教組は、・・・絶対反対の立場を貫いています。〉と明言している。
 このように、ボーナス三千三百万円強盗事件を誘発した原因には、こうした広島県教組の闘争があったことを指摘されると、平然とシラを切るのである。
 
三、「道徳」廃止し「国語」を「日本語」に改変
 
 文部省は、平成八年度までの公立中・高校の校内暴力件数の調査を『文部広報』(一月二十三日刊)に発表した。
 それによると、中学校では、昭和五十八年度に三、五四七件であったものが、平成七年度には五、九五四件、八年度には八、一六九件に急増している。高校では、昭和五十八年度に七六八件であったものが、平成七年度に二、〇七七件、八年度には二、四〇六件と増加している。
 この中で、対教師暴力事件は、中学校では、平成七年度が八八八件で八年度には一、三一六件と激増している。高校では、平成七年度が二二七件で八年度には二三四件となる。
 こうした対教師暴力事件等の凶悪犯罪は増加の一途をたどり、神戸市須磨区の中学生の児童連続殺傷事件以来、ことしに入って一〜二月だけでも、栃木県黒磯市の女性教師刺殺事件・東京都江東区の警察官襲撃事件・埼玉県浦和市の女子中学生二人による老人撲殺事件等がある。
 こうした荒れる中学生、キレル中学生に対して、教える教師の不道徳ぶりも大変なものである。
 福山市でも『毎日新聞』(昨年十月二十五日付)が「携帯で『モシモシ』、授業中断――保護者カンカン」で報道している如く、市立小学校で、〈今年四月以降、女性教諭が少なくとも五〜六回あり、男性教諭は十回以上という。女性教諭は電話がかかってくる度に教室のベランダに出て3〜5分通話。家族から「食事の量が足りない」「家のかぎがない」などという家庭内の話だった。男性教諭も携帯電話をズボンのポケットに入れて授業を行い、電話が鳴るとベランダや廊下で数分間話していたという。〉
 こうした非常識な行動が横行している福山市であるからして、「道徳」教育の廃止を学校長以下全教師で実行するという中学が続出しても、福山市教育委員会は全く放置して平然としているのである。
 小中学校の教育課程は、「教科」「道徳」「特別活動」によって編成するものと学校教育法施行規則で明記している。「道徳」の特設授業は、小学校では、一年生が三十四時間、二年生以上が三十五時間、中学校は、三十五時間を年間で実施することになっている。
 その特設の「道徳」教育は、中学校学習指導要領の「第3章 道徳」で次のことを教えることになっている。それは、
「1 主として自分自身に関すること」では、「(1)望ましい生活習慣を身に付け、心身の健康の増進を図り、節度と調和のある生活をするようにする。」こと等五項目を示す。
「2 主として他の人との関わりに関すること」では、「(1)礼儀の意義を理解し、時と場に応じた適切な言動ができるようにする。」こと等五項目を示す。
「3 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること。」では、「(1)自然を愛し、美しいものに感動する豊かな心をもち、人間の力を超えたものに対する畏敬の念を深めるようにする。」こと等三項目を示す。
「4 主として集団や社会とのかかわりに関すること」では、「(1)自己が属する様々な集団の意義についての理解を深め、役割と責任を自覚し、協力し合って集団生活の向上に努める。」こと等九項目を示す。
 こうした「道徳」教育を昭和三十三年に導入以来一貫して反対してきた日教組の運動方針を忠実に実践しているのが福山市の学校教育であって、市立駅家中学校の一年生の時間割表には全く「道徳」がない。市立城南中学校でも同様という。
 また、時間割表に「道徳」がなく、「人権」と明記している学校が市立大成館中学校・市立誠之中学校・市立加茂中学等がある。
 この「人権」の学習指導案によると、〈「日の丸は国旗ではないし、君が代も国歌ではないことを知らせ、日の丸・君が代の強制に対してどう思うか、考えを交流しあう」との記述があり、国旗・国歌を尊重するよう定めた学習指導要領を逸脱した授業が行われている〉と『産経新聞』(二月一日付)は報道している。
 この報道では中学校名を明示していないので、この学習指導案が何中学校か不明である。しかし、福山市の「人権」教育が「反日の丸、君が代」教育を通じて「反天皇制教育」(福山市の教育用語)にあるのであるからして、時間割表に「人権」を明記する中学校のすべての教育実態を示すものと理解してよい。
 さらに、驚くべきことは、教科名「国語」を「日本語」に改変している学校が存在することである。それは、市立駅家中学校である。こうした事例は、大阪府豊中市の市立蛍池小学校・市立克明小学校にもあり『産経新聞』(昨年十二月二十一日付)によると、〈外国人児童への配慮といい、時間割などにも「日本語」と記入、蛍池小では通信簿も同様に表記するなど、名称的には国語が消滅≠オた格好。しかし、市教委への報告では「日本語」が認められないため、国語としていた。〉という。
 これは重大な問題である。『産経新聞』(昨年十二月二十八日付)の「主張」欄で「『国語』と『日本語』は違う」と論評している如く、〈「国語」と「日本語」は同じように見えるかもしれないが、学校教育のうえでは意味がまったく異なる。「国語」は日本人の児童・生徒が、自分たちの生まれ育った国の言語という意味だけでなく、 感情の機微に応じた細やかな使い分けや、母国語に秘められた文化・伝統を学ぶ授業である。これが「日本語」という教科名では「英語」「ドイツ語」「中国語」など外国語の授業と変わらず、いったい、どこの国の授業か分からなくなる。〉と指摘している如くである。
 なお、学習指導要領を無視している事例は、「道徳」の廃止や教科名の変更にとどまらず「授業の一単位時間は、五十分を常例とし」(指導要領の第一章の第五授業時数の取扱い)とあるのを理由もなく「四十五分授業」にしている中学校も福山市には存在する。
 
四、「指導要録」の形骸化
 
 学校には、生徒・児童に関する基本台帳である「生徒指導要録」という「学習及び健康の状態を記録した」ものが存在する。これが、高校入試用の「調査書」作成の折の基本資料ともなるものである。
 ところが、広島県特に福山市では、この「指導要録」「調査書」の作成実態は形骸化が進行している。こうした形骸化を積極的に推進しているのが、広島県教職員組合と広島県同和教育研究協議会(下部組織として福山市同和教育研究協議会が中小幼保と公民館及び市教委事務局の教師及び職員で構成される完全な公的な団体≠ニして存在する)である。
 この実態は、広島県教組の平成九年度の運動方針にもみることが出来る。即ち、『第69回 広教組定期大会議案(抄)』(79・6・17〜6・18)の「第7議案」の「子どもの人権を保障する民主教育を確立するたたかい」の中で、〈調査書への「観点別」記入については、形骸化するとりくみをすすめます。〉としている。
 また、広島県教組の『広島教育時報』(97・10・25号)は、「高校全入運動」推進のためにも、〈94年、県教委が強行導入した調査書への「観点別」「スポーツ・ボランティア」については、・・・形骸化のため次のとりくみを強めます。〉として、〈職場会・職員会での学習にとりくみ、「観点別」「スポーツ・ボランティア」の問題点を学習し、原則として「書けないから書かない」ことを確認します。〉としている。
 なお福山市同和教育研究協議会の機関紙『福同教』(97・6・2号)は、「一九九七年度 福同教同和教育推進計画きまる」として、その「二、活動方針」の「6」では、〈「臨教審」や「学習指導要領」は、「日の丸・君が代」の強制や「天皇」美化を柱とするなど、今日まで私たちがすすめてきた同和教育や人権確立に逆行する中味を数多く持っています。この「学習指導要領」に抗する教育内容の創造と一人ひとりを大切にする教育実践をすすめるために組織的なとりくみをすすめます。〉としている。
「7」では、〈福山市情報公開条例・個人情報保護条例の学習を深め、児童票・指導要録の形式や内容の問題点、指導要録と高校入試「調査書」の関係等について各所・園・校の実態を交流しながら組織的な研修をすすめます。〉としている。
 この基本方針のもとに、「指導要録検討部会」で指導要録の「記入」「保管」「取扱い」「外部証明」等について徹底的な検証を実施する。その中心は「記入」の形骸化にあるようである。この形骸化の実態を全県的に掌握して県教委との交渉資料とするために広島県同和教育研究協議会は、平成八年七月十一日付で県内すべての高中小幼保の学園に対して「指導要録に関する実態調査の依頼」を出している。
 では、この「指導要録」の形骸化の方針・指示とその実例を紹介しよう。
 福山市同和教育研究協議会(福同教)の方針を示したと思われる「指導要録」の具体的記入方法を示したものが教育現場で活用されている。それは、『学籍に関する記録』部分では、「児童・生徒の氏名」欄では、〈生年月日は西暦のみで記入する〉。「保護者の氏名・現住所について」欄では、〈この欄は、そもそもどんな時に必要なのか。・・・議論していく必要がある〉。「入学前の経歴」欄では、〈記入しない〉としている。
 次に、『指導に関する記録』部分では、「各教科の学習の記録」欄のうち、「I 観点別学習状況」(国語では、国語への関心。意欲。態度。表現の能力等)ではA(十分に満足できる)・B(おおむね満足できる)・C(努力を要する)と評価することは差別に加担することになるから「空欄」とする。
「II 評価」(学力評価のこと)では「I」「C」とか最低評価はつけないことを基本とする。
「III 所見」では、〈各教科の学習について総合的に見た場合の児童・生徒の特徴及び指導上留意すべき事項を記入すること。この際、児童・生徒の長所を取り上げることを基本となるよう留意すること〉(文部省指示)は、〈不可能である〉からして「記入しない」で「空欄」とする。即ち、「学習の記録」欄は「評定」以外は直ちに廃止せよということである。
「特別活動の記録」欄のうち、「I 活動の状況」(学級活動・生徒会活動・クラブ活動・学校行事の4項目あり)では「各内容ごとにその趣旨に照らして十分満足できる状況である場合には、欄内に○印を記入すること」(文部省)は、〈子どもたちの思想を評価し、その生き方まで左右し、強制する危険性がある〉から「空欄」とする。
「特別活動」の「II 事実及び所見」では〈活動状況について、主な事実及び総合的に見た場合の所見を記入すること。この際、「所見」については、児童・生徒の長所を取り上げることが基本となるよう留意すること〉(文部省)とあるが、〈「空欄」を原則とし、記入する場合でも係り名・委員会名・クラブ名のみ記入する〉としていて、学級長・生徒会長等で活動したことや部活動で対外試合で入賞したこと等一切記述してはいけないとしている。
「行動の記録」欄のうち、「I 行動の状況」(基本的な生活習慣。明朗・快活。自主・自律等)では〈掲げられた項目ごとにその趣旨に照らして十分満足できる状況にあると判断される場合には、欄内に○印を記入すること〉(文部省)は、問題があるので各項目をどうとらえるのか基本論議をすべきである。従って「空欄」とする。
「進路指導の記録」欄は〈生徒の将来の希望や生徒の学習活動の状況等について記入すること〉となっているが、単に、〈「進学希望」または「就職希望」と記入する〉としている。
「指導上参考となる事項」欄は、〈児童・生徒の特徴・特技等、校内外における奉仕活動等及び表彰を受けた行為や活動等、知能・学力等について標準化された検査の結果など指導上参考となる事項について記入すること〉になっているが、〈「知能検査」については、記入しない。「空欄」にすることを原則とする〉としている。即ち、今日盛んに提唱されている「奉仕活動」も全く評価しないということである。
「出欠の記録」欄の「備考」の項目は「空欄」とすることとしている。
 このように、「生徒指導要録」の「形骸化」は、高校入試にも直接的に連動してくる。このことは、新高校入試制度に重大な影響を与えるのである。
 広島県教委は昨年四月十一日、従来の総合選抜制度を教員組合の反対を押し切って単独選抜制度に変更した。これによると、学力検査を実施して選抜する「選抜II」の外に、学力検査を実施しないで、〈推薦書、調査書、作文及び面接の結果によって総合的に判断して決定する。〉という「選抜I」がある。
 この「選抜I」では、「選抜II」よりも「偏差値に依存しない方法」で選抜されるので、『学習の記録』欄の「観点別学習状況」と「所見」、『特別活動の記録』欄、『行動の記録』欄等が重大な選抜資料となってくる。
 ところが、この項目は「生徒指導要録」に記載されていないか、または、極端に軽視されているのであるからして、中学校作成の「調査書」は全く信憑性のないものとなる。従って、「選抜I」の趣旨に反する公文書偽造の疑いすら発生する重大問題であると指摘する者もいるほどである。
 現に、福山市内のA中学校では、金髪・茶髪・ピアースと服装も生活も乱れている女生徒が「選抜I」に推薦されているという。B中学校では、籤引きで「選抜I」の生徒を選び問題化しているともいう。こうした、推薦実態と内申書作成方法が保護者より糾弾されてくれば、福山市を中心とする広島県の教育の威信は完全に失墜することであろう。
 
五、高校の「反日教育」の実態
 
 広島県下の小中学校の「反日の丸・君が代」教育を通じての「反天皇制学習」は想像を絶するものがある。ところが、高校を調べてみるとこれまた「反日の丸・君が代」教育から「反戦・平和」教育へと広範囲にわたる「反日」教育が全県的に推進されている。
 広島県高等学校同和教育推進協議会の『一九九五年度 広島県高等学校同和教育の総括』によると、九五年度即ち平成七年度の主なる事業八項目の第三項目が、『〔3〕「日の丸・君が代・元号」の教育内容化について』である。
 これによると、〈一九九〇年以来の新学習指導要領(一九九四年実施)の「国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」とした特別活動の記述による強制に反対する取り組みから、「日の丸・君が代」は教育内容であり、県内全会員校において、LHR等の年間計画に「日の丸・君が代」を位置づけ、その問題点・差別性をきちんと生徒に伝えていくことを確認している。この結果から、ほとんどの学校で「日の丸・君が代」の教育内容化が定着してきていることが分かる。〉としている。
 即ち、平成六年三月十一日現在の『「日の丸・君が代」教育内容化集約(障害児学校は高等部のみ集約)』の「表」によると、県立全日制・分校の在校生のL・H・Rを中心とする「反日の丸・君が代・元号」教育の授業時数についてみると、一時間が三十七校、二時間が二十二校、三時間が九校、四時間以上が二十三校、その他(LHR以外での実施を含む)三校であって、未実施校は零となっている。
 その教育内容は、〈「日の丸・君が代・元号」の教育内容化がわたしたちの暮らしや学校態勢に潜む「天皇制」をも撃つ内容になっているのか。〉という課題に応えるものであることが要請されている。
 また、広島県高等学校教職員組合の機関紙『広島高教組時報』(97・9・16号)は、『96年度平和教育総括・「日の丸・君が代」LHRの集約』の特集号である。
 この中で、ホームルームにおける「日の丸・君が代・元号」についてのとりくみが紹介されている。
 たとえば広島県議会・文教委員会で一月十九日に石橋良三議員が指摘された如く、黒瀬養護学校では、〈「日の丸」は船の印で国旗ではない。「日の丸」はアジア侵略へのシンボルである。〉(高等部一年)ことを授業のねらい・内容とするとしている。原養護学校では、〈学習指導要領に「日の丸・君が代」が導入されてきたその経緯をふりかえることによって、天皇制を強化しようとする権力者の意図を明らかにし、差別の構造を強化することによって、自らの利益を守ろうとする特権階級の策動に対して絶えず監視の目を光らせることの必要性を確認する。〉(二年)としている。
 観音高校では、〈「日の丸・君が代」の成立とその意味。戦前の歴史の中で、軍国主義、国家主義のシンボルとして、またそれらを強化するために用いられたこと。〉を内容として授業をしたところ、〈「君が代」の歌詞の意味、「日の丸・君が代」が国旗・国歌でないこと等、知らなかったことが多く、授業に対して真剣であった。〉(定時制・一年)と生徒の好反応をも紹介している。
 また、「日の丸・君が代・元号」以外の平和教育では、原爆・沖縄戦・加害・朝鮮人強制連行等が中心課題として採用されている。
 なお、戸手商業高校・広島ろう学校呉分校等のLHRでの取り組みの実例としてその「指導案」が紹介されている。そこには、徹底した「反日の丸・君が代」教育の実態が示されている。
 
六、福山市の卒業式、校長が前日一斉に「反日の丸」講話
 
 昨年九月一日前後に『産経新聞』『正論』による広島県教育界の「菅川確認書」とか「二・二八文書」と呼称される県教育長見解による「反日の丸・君が代」教育を通じての「反天皇制学習」を実施している実態が紹介されたことにより、「九・九・一ショック」が発生した。
 この事態に対応するために、広島県教育委員会は、昨年十月十七日の県議会・文教委員会で石橋良三議員への答弁の中で、〈広島県の実情を踏まえ、国旗・国歌に関する学習指導要領に定められた内容とともに、過去の歴史的経緯もあわせて教育内容とすることが適切であると考えている。〉という「木曽・新見解」を示した。
 しかし、この「木曽・新見解」は、「菅川確認書」を要約したものであるとして、県民有志の反発を招いた。事態を憂慮した自由民主党の教育問題連絡協議会(会長・奥野誠亮議員)は、十月三十一日と十一月二+八日に協議会を開催し、今年三月の高校入試終了後に国会議員調査団の派遣を検討する方向で会議を集約した。
 広島県内では、二月十一日の「建国記念の日奉祝委員会」主催の『建国記念の日 奉祝式典』において、〈一、私たちは、広島県下においてわが国の正しい歴史、伝統を伝える教育が、『学習指導要領』に準じて正しく行われるよう要望する。〉という「決議文」をも採択した。
 こうした県民世論を受けて、県議・市議・PTA役員・実業界の有力者たちが二月十九日に上京し、教育問題連絡協議会等各方面に陳情をした。
 その『要望書』の主旨は、〈広島県教育の大改革のため、貴協議会による調査団の派遣を伏してお願い申し上げる次第であります。〉としている。
 その調査要望項目は、〈1。「学習指導要領」が守られていない。(教育委員会がそれを指導できていない)〉として、その実例四小項目を示している。次に、〈2。教育現易のモラルの低下。(校長が教職員を指導できていない)〉として、その実例三小項目を示している。さらに、〈3。平等と言う名の行きすぎた指導。〉として、二小項目を示している。
 この国会への陳情の成果は、二月二十四日の自由民主党・文教部会での発言として具体化した。それは、衛藤晟一議員が、〈大分では闇専従が数十人もいたが、地方分権で地方に行政をまかせたら、日教組のほしいままにやられてしまう。広島では国旗・国歌問題が起こっているが、ここの高教組は、日の丸・君が代は国旗でも国歌でもない。日の丸・君が代の害毒を教えよと言っている。〉と、また、中川昭一議員は、〈広島の菅川元県教育長が日教組の圧力を受けて、日の丸を否認するような文書を出した。後にこの人は新進党で出馬している。〉等と痛烈な批判が続出した。
 こうした県内外の「反日の丸・君が代」教育に対する批判の中心地福山市では、二月十三日(金)に臨時の小中学校校長会を市教委が招集した。そこで、木曽県教育長より、〈今年度は日の丸を掲揚して欲しい〉旨の発言があった。そして、『正論』(三月号)・『産経新聞』・『日本時事評論』(本社は山口市吉敷一二九―二二)の抜粋等が配布された。
 また、福山市池口市教育長も、〈日の丸の掲揚は校長の主体で責任をもってやって欲しい〉等の発言があったという。その後、市教委と市校長会が教員組合に行って、卒業式には日の丸を「三脚設置」方法で掲揚? を認めて欲しい。そうしないと国会議員の調査が入り、教育内容まで調査される恐れありと懇請したという。
 さらに、広教組・福山地区執行委員会が二月二十四日(火)に開催され、ここでも『正論』等が配布された。そして、二月二十五日(水)の小中学校の分闘長会議が開催された。その会議の結論は、〈卒業式の式場には、校旗とともに「日の丸」を「三脚設置」する。この「三脚設置」をすることにより混乱が発生することを回避するために、卒業式の前日(卒業式予行練習日)等に生徒に対して、「日の丸」が戦時中に果してきた役割について講話を実施する。(即ち、「反日の丸」教育の実施)さらに、「三脚設置」の代償として次の四項目を要求する。〉とした。それは、
 (1)「二・二八文書」の見解・解釈にそった「日の丸・君が代」の教育内容を年間を通して教育をしていく。
 (2)西暦のみの証書を要望する生徒には希望にそう。(今年も西暦のみの卒業証書を希望させるよう授業が実施されているという。)
 (3)同和教育は、これまでどおり実施し、さらに、充実させる。
 (4)佐藤泰典加茂中学校教諭の人身攻撃を市教委等に開始させる。
 この要求の(1)(2)(3)にみる如く、教員組合の方針は、「反日の丸・君が代・元号」教育を通じて「反天皇制学習」を従来通り実施するというものである。そして、(4)は、佐藤教諭への事実無根の人身攻撃を組織的に実行しようという要求を市教委―校長会に対して行うというものである。この「日の丸・君が代」問題は、佐藤教諭の個人レベルの問題ではなく、県政・国政レベルの問題になっているのである。佐藤教諭を教員組合―校長会―市教委―県教委が一体となって教育界より追放することは可能であっても、広島県の「反日教育」批判の動向を阻止することは不可能であろう。
 もし佐藤教諭が「日の丸・君が代」教育の適正化を希望したことを理由として、人身攻撃を組織的に展開を開始するようであれば、筆者(上杉)としても今までのように問題事例に関して、例えば、高校入試等の場合でも校名を伏せる等の配慮を行ってきた態度も変更せざるを得なくなってくる。また、筆者(上杉)以外の方々の糾弾活動への参加も加速するであろう。
 さて、卒業式の前日等に中学校長がどのような講話をされるかを憂慮した福山市内の生徒の保護者等が市内二十七校に対して電話で質問をした。かつ、「日の丸・君が代」が国旗・国歌であるよう適切な教育を実施されることをも要望した。ただ、保護者名を明示すると子供が先生たちのイジメにあうことを恐れて匿名にした方もあり、十分応答がなかった学校もあった。
 その実態は、〈日の丸は「三脚設置」等で掲揚する。但、君が代は斉唱しない〉という返答がほぼ全校であった。また、事前の講話では、〈市教委の指導に従って、国旗を掲げるかわりに、「日の丸」の害毒についてものべる〉(城南中学)、<私は教育委員会の指導に沿って連携して教育を行っている〉(鳳中学)と市教委の指示を遵守することを強調する。
〈(講話の内容は)教科書に書いてある通りである〉との返答に対して、その教科書通りとはどういう内容か質問をすると、自分で調べてくれという冷たい対応である。そして、〈とにかく誰かわからない者には答えられない〉とだんだん声を荒らげた返答となり、〈こんな電話は始めて、今まで保護者から不信といわれたことはない〉という。
 そこで、〈人権学習をしたプリントを先生が回収するので子供が持ち帰らない〉と伝えると、〈そのようなことはない〉(大成館中学)と反論された。〈日の丸が今まで戦争の侵略に使われた事実の経過は押えて話をする。そして、これからの情勢を考え他国を尊ぶような立派な国際社会人となってほしい。そのためにも他国の旗と同じように、日の丸は日本を代表する旗であると話す〉(中央中学)との返答の中で、〈学習指導要領に拘束されている実情があるので〉という発言には日教組的な発想を感じたという。
 また、〈事前に日の丸のことは話済み、今後は肯定的に見るように指導し、職員も納得済み〉(山野中学)、〈今までの日の丸の果してきた役割というところを少しつっこんで話をしていくと、今までの教育には確かにかたよったところがあったことは事実である〉と認められた。
 そして人権学習の話にもっていくと、〈いろいろ心配をかけましたが二月二日に全ての時間割を修正しました。通知表の方もシールを貼って持ち帰らせます〉(駅家中学)と「道徳」教育を時間表より削除し、かつ、「国語」を「日本語」に改変していたことへの反省の言葉があった。
 以上の如く「九・九・一ショック」以来、「反日教育」の牙城である福山市の教育界にも大きな動揺が生じてきている。
◇上杉 千年(うえすぎ ちとし)
1927年生まれ。
国学院大学史学科卒業。
岐阜県立斐太高校、同高山高校の社会科教諭を務め現在、歴史教科書研究家。


 
 
 
 
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