森喜朗首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」は、教育基本法の見直しを最終報告に盛り込むことで大筋合意した。今後、見直し論議にあたっては「基本法の条文のどこが問題か」だけでなく、「条文に何が欠けているか」にも焦点をあててほしい。
占領下の昭和二十二年に施行された教育基本法は前文と十一条の規定から成る。「人格の完成」「教育の機会均等」「男女共学」などがうたわれ、戦後民主主義教育の基本理念とされてきた。見直し反対論のなかには、「条文のどこに問題があるのか分からない」「何度読み返しても、どこを変えなければならないのか理解できない」という声がある。
しかし、国の教育基本法としては、決定的に欠落しているものがある。それは、日本人としてのありようである。つまり、現行の教育基本法では、日本の子供たちが無国籍な地球市民にはなり得ても、誇りある日本人に育つような法律になっていないのである。
教育基本法は当時の田中耕太郎文相が要綱案を書き、安倍能成氏を委員長とする教育刷新委員会の審議を経て制定されたとされる。日本国憲法のように、GHQ(連合国軍総司令部)から原案を一方的に押し付けられたものではない。しかし、教育基本法制定の過程で、GHQの干渉により重大な変更を受けている。「伝統を尊重」「宗教的情操の涵養」などの字句が日本側原案から削られたことだ。
いずれも、国の教育理念として欠かせない価値である。自分の生まれた国の歴史と文化の伝統を尊重することは、日本の子供たちが国際社会で活躍すればするほど、ますます必要な素養になってくるだろう。また、特定の宗派にとらわれず、広く神道や仏教、儒教など古来の宗教が地域の習俗や生活習慣に溶け込んでいることも、語り伝えたい。それが、他国の歴史や伝統文化、宗教にも理解を示す豊かな心をはぐくむからである。
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