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2000/09/10 産経新聞朝刊
【主張】教育基本法 改正へ首相が先頭に立て
 
 森喜朗首相の私的諮問機関・教育改革国民会議は、戦後日本の教育の指針となってきた教育基本法の改正について大筋で一致した。今月下旬発表の中間報告に盛り込まれる。抜本改正に向けて、森首相の指導力が問われる局面を迎えることになる。
 現行の教育基本法は前文と十一の条文からなる。占領下の昭和二十一年から二十二年にかけて、GHQ(連合国軍総司令部)の干渉を受けながらも、当時の田中耕太郎文相らが中心になって自主的に制定した法律とされる。「人格の完成」や「教育の機会均等」など世界共通の普遍的な教育理念をうたっている。
 その限りにおいては、ほとんど非の打ちどころはないともいえるのだが、肝心なことが欠けている。歴史と伝統文化を尊重し、家族愛や郷土愛、愛国心をはぐくむという視点である。
 教育基本法の制定過程では、GHQの干渉により、日本側原案から「伝統を尊重」「宗教的情操の涵養」などの字句が削除されたことが、のちに公開された占領文書で明らかになっている。日本の伝統的な宗教行事や風俗、習慣を通じた心の教育まで封じ込めようとしたGHQ側の意図がうかがえる。そうした基本法誕生のいきさつを改めて検証する必要がある。
 改正にあたっては、先人の知恵も参考にしたい。昭和二十六年、当時の天野貞祐文相は戦前の修身の授業や教育勅語の廃止に伴う道徳教育の空白を埋めるため、「国民実践要領」をつくった。
 「個人」「家」「社会」「国家」の四章に分け、「個と公」「国益と国際協調」のバランスをとりながら、日本国民としての規範を示したものだったが、言論界や教育界の反発を受け、日の目を見なかった。四十一年、文部省の中央教育審議会が答申した「期待される人間像」も、同じ構成になっている。これらを改めて読み返してみることも必要だろう。
 教育基本法の改正は、十数年前の中曽根康弘内閣の臨教審(臨時教育審議会)でもタブー視され、手をつけられなかった課題である。現在も、野党や一部マスコミ、日教組、全教など教職員組合の間では依然、抵抗感が根強い。教育改革国民会議の中にも改正を疑問視する声が一部にある。こうした状況下で、国民会議があえて改正の方向を打ち出した背景には、森首相の強い意向もあったといわれる。
 改正実現までには難航必至とみられるが、二十一世紀の日本を担う子供たちが、日本に生まれたことに誇りをもてるような新法を期待したい。


 
 
 
 
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