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2000/09/07 産経新聞朝刊
【主張】奉仕活動 身近な所で習慣付けよう
 
 小中学生の奉仕活動を義務付けることが、今月下旬発表の教育改革国民会議の中間報告に盛り込まれる見通しとなった。自己中心的になりがちな最近の子供たちに公共心をはぐくむ有力な方法である。これを実効あるものにするためには、先生や親たちが今から準備を進める必要がある。
 奉仕活動は提案者の曽野綾子委員が指摘しているように、個々人の自発性によるボランティア活動とは異なる。自分の意に沿わないことでも、それが世の中の役に立つことであれば、やらねばならないときがある。それが奉仕活動である。学校においては、先生自身がまず、この奉仕活動の意義をよく理解しておくことが大切だ。
 学校教育で奉仕活動が義務付けられた場合、児童生徒たちは農作業や街頭の掃除、老人ホームの高齢者介護などに出向くことになる。その前に、校内や校門付近の清掃など身近なところから奉仕活動を徹底させておくことも必要になる。
 以前は、どの学校でも掃除当番が決められ、放課後には、教室やトイレなどを分担して掃除していた。今は、トイレの汚れが目立ち、業者に掃除を任せている学校もかなりあるという。これでは、とても子供たちを校外の奉仕活動に連れ出せない。自分たちが共同で使うトイレ掃除くらいは、子供たちにやらせるべきではないか。家庭でも、子供部屋の掃除はもちろん、居間や応接間などの掃除や食事の後片付けなどを、できるだけ子供が手伝うように習慣付けてほしい。近所で排水路の掃除などを分担するときは、子供を参加させてもよい。
 こうした身近な奉仕活動を通じ、社会が自分一人だけで成り立っていないことを、子供たちは知るだろう。
 曽野委員が第一分科会の議論をもとにまとめた「日本人へ」と題する呼びかけは、奉仕の志についてこう書いている。「今までの教育は、要求することに主力をおいたものであった。しかしこれからは、与えられ、与えることの双方が、個人と社会の中で温かい潮流を作ることを望みたい」「私たち人間はすべて生かされて生きている」
 戦後日本の教育は、戦前・戦中の滅私奉公時代の反省もあって、個人の幸福と利益、権利などを重視してきた。だが、それが行き過ぎた結果、自己犠牲や忍耐、社会貢献といった価値がなおざりにされた面も否定できない。奉仕活動の義務付けについて「戦前への逆戻り」とする声もあるが、ためにする論である。日本の教育に、「個と公」「権利と義務」などのバランスを取り戻すための施策ととらえたい。


 
 
 
 
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