来年度に日本の小中学生の七%、四十八万人を対象とする大規模な学力調査が行われる。全児童生徒を対象とした全国学力テスト(学テ)が中止されて以来、三十五年ぶりの本格的な学力調査である。文部省は調査結果を学校や教員の評価につなげ、子供の学力向上に活用してほしい。
学力調査をめぐって、戦後日本の教育界には苦い経験がある。当初、文部省は一部の小中学生に対し、国語・算数(数学)・理科・社会の主要四科目の学力試験を行っていたが、次第に自主参加を希望する学校が増え、昭和三十六年から全児童生徒を対象とする悉皆(しっかい)調査を行うようになった。それが都道府県や学校別のランク付けにつながったこともあって、日教組などが猛烈な反対闘争を展開し、文部省は四十一年、学テを中止した。
その後、文部省は二度ほど、小中学生の一%について学力調査を実施したが、都道府県・学校別の得点比較は出さず、中途半端なまま終わっている。来年はその調査の範囲が七%に広がる。将来は一〇〇%に広げ、都道府県・学校別の実績も公表して、学校や教員の評価にも反映させてほしい。
昭和五十年代以降、文部省はそれまでの過度の詰め込み教育や受験競争への反省から、ゆとりと個性を重視する学校教育を推し進めてきた。今日、それが行き過ぎた結果、「読み・書き・計算」を中心とする基礎学力までおろそかになり、大学生の学力低下も招いている。最近の調査では、理工系学生にも、中学校レベルの小数計算ができない学生がかなりいるという。科学技術立国・日本の将来を揺るがしかねない問題である。
文部省の中央教育審議会などはこれまで、「ゆとりの中での生きる力の育成」「個性や創造性の発見」といった新しい学力観を提示してきた。その方向は間違っていないが、生きる力や個性も基礎学力を身につけたうえで花開くものだ−という事実を忘れている。基礎学力は児童生徒が好むと好まざるとにかかわらず、半ば強制的に教え込まなくてはならないものだ。
米国でも以前は子供の個性や権利を過度に重視した教育が行われていた。だが、それが学力低下を生み、一九八三年、レーガン政権は「危機に立つ国家」と題する報告書で教育の危機的状況を訴えた。その後、多くの州で日本の学習指導要領にあたる「教育スタンダード」が作成され、それに沿った学力テストが行われている。その結果は、学校への補助金などに反映されている。日本の学校教育にも、競争原理の導入が求められているのである。
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