小渕恵三首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」(座長・江崎玲於奈前筑波大学長)の議論がスタートした。各委員からは、それぞれの経験や見識を踏まえた問題提起が行われた。これらの英知を生かし、戦後教育を抜本的に見直す答申を期待したい。
「十八歳での一年間の奉仕活動」は作家、曽野綾子さんのアイデアだ。「与える喜びを子供たちに教える必要があるからだ」という。昨今の青少年は、社会生活のルールや規範を十分に身につけないまま、社会に出ることが多い。ささいなことでキレる傾向も強い。十八歳という子供から大人になる節目に、一定の勤労奉仕を義務づけ、規律正しさや辛抱強さを学ぶことは貴重な体験になるだろう。
リコー会長の浜田広さんが提案した「十四、五歳で農業をしながら勉強する国民皆農制」も、同じような狙いと思われる。昔の校庭には、薪を背負いながら本を読む二宮尊徳の像が立ち、働きながら学ぶことの大切さを教えていた。農耕民族としての日本人が持つ勤勉性を後世に伝えるためには、このような農業実習論も傾聴に値する。
このほか、「温故知新を踏まえ、日本の伝統の中から良かった面を教えるべきだ」(梶田叡一・京都ノートルダム女子大学長)、「日本も諸外国のように教育の“武装化”が必要だ」(藤田英典・東大教授)、「人生の感動を呼び起こすための偉人の人生を語る時間」(劇団四季代表の浅利慶太さん)などユニークな提案が相次いだ。それぞれの専門分野で道を究めた人ならではの指摘である。
かつて、教育に関する首相の諮問機関としては、中曽根康弘内閣の臨時教育審議会があった。臨教審は昭和五十九年から六十二年にかけ、「個性重視の原則」「生涯学習体系への移行」などを答申した。その後、中央教育審議会や大学審議会などが打ち出した路線は、臨教審答申に沿ったものだ。この中で、国旗・国歌の指導や大学・大学院の活性化などは成果を挙げているが、ゆとりや個性重視の教育は必ずしも、うまくいっているとはいえない。
臨教審には、「教育基本法には手をつけない」などさまざまな制約があった。しかし、小渕首相の教育改革国民会議には、そのような制約はない。臨教審では十分にできなかった戦後教育の総点検を行い、「教育基本法の見直し」などを主要テーマに、自由な議論が行われるという。半世紀以上に及んだ戦後民主主義教育の行き過ぎた面を正し、「個と公」「権利と義務」「自由と規律」のバランスを取り戻すような議論も望みたい。
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