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1995/08/30 産経新聞朝刊
【日教組は変わるか】(上)著しい組織力低下でイメージチェンジに躍起
 
 「日の丸・君が代問題棚上げ」「学習指導要領是認」−。戦後四十年以上も文部省と対立してきた日教組(横山英一委員長)が闘争路線を転換、文部省と協調路線を歩む内容の新運動方針を明らかにした。九月一日から東京で開催される定期大会で提案されるが、組合員には「これまでたたかってきたのにハシゴを外された」という声も根強く、各県単組の反発も予想される。この時期、日教組が運動方針を転換するのはなぜか。日教組は本当に変わるのか。その背景を探った。(阿比留瑠比 本多香保里)
 「戦後、教育が荒廃した責任の半分は日教組にあります」
 今年四月、自民党の文教部会の勉強会に招かれた横山委員長はこう発言、自民党議員を驚かせた。同席した高橋史朗・明星大教授(教育学)によると、横山委員長の講演後、議員からは「横山さん、がんばってくれ」とエールが飛んだという。
 高橋教授は「日教組の中央は本当に変わりたいんだと感じた。変わらないと、内外から受け入れられないという危機感があるのだろう」と話す。
 
◆和解ではない?
 「なぜ、本部は運動方針を変えたんだ」。新運動方針案が各県単組に配布された七月下旬、東京・千代田区の日教組本部には、県単組からの電話が殺到、本部職員らは対応に追われた。
 地方からの疑問の声に対し、日教組の横山委員長は「いじめや不登校など教育の荒廃が進む中、文部省とけんかしている場合ではない」と説明、「日教組が歩み寄った和解ではない」と強調する。
 自社さの連立政権の下、文部省側も柔軟な姿勢に変わった。与謝野馨前文相は横山委員長に対し、「大きな時代変化の中で、どちらが勝ったとか負けたとかという見方はしない」と話したという。
 だが、元文相で新進党政権準備委員会(明日の内閣)の西岡武夫・総合調整担当はこう皮肉る。
 「運動方針は一年間の組織方針にすぎない。本当のところ、日教組は変わったのか。自社さのあいまいな連立政権と同じで、基本的なところをあいまいにしている」
 
◆「たたかい」放棄?
 「勤評・安保・高度成長と日教組のたたかい」「中教審・臨教審路線下の民主教育確立のたたかい」…。『日教組四十年史』の目次には、「たたかい」という言葉が連なる。
 だが、そうした闘争路線もここ数年、変わりつつある。平成元年、反主流派が全日本教職員組合協議会をつくって分裂し、主流派の日教組は労使協調路線をとる連合への加盟を決定。翌二年の定期大会では、それまでのスローガン「反対・阻止・粉砕」を転換、「参加・提言・改革」を運動の基本に据えた。
 横山委員長は「反対阻止闘争一点張りから参加、提言し改革していくという努力を五年間積み上げてきた」と話す。
 一方、渡久山長輝書記長は「抵抗のための戦いをしてきたが、これからは創造のためのたたかいをしたい」と言いながら、「この四、五年間を総括すると、中身は必ずしも十分でなかった」と認める。
 「たたかい自体が成り立たなくなった」という見方もある。
 杉原誠四郎・武蔵野女子大教授(教育学)は「昔の親は戦前育ちで教師に従順だったが、今の親は教師に文句のつけたい放題で、教師の言うことを聞かない。日教組としても、以前は子供を盾に文部省とやり合えたが、今は親からも突き上げられ、たたかいどころではないのでは」と話す。
 
◆転換の背景
 日教組の闘争運動が激しかったころの委員長だった槙枝元文氏=日中技能者交流センター理事長=は「天野貞祐元文相の時(昭和二十七年)までは、日教組と文部省は話し合いをしてきたが、その後、政権政党の文相となり、日教組が反発した」と振り返り、今回の日教組の路線転換の背景に「村山政権の発足と五五年体制や社会主義国の崩壊がある」と指摘。さらに、「子供が犠牲者になることは分かっていたのに、それ(和解)ができなかったのは、自民党と社会党が対立していたからだ。文部省も日教組を弱体化させるために全力を尽くしていた」と自戒をこめて語った。
 最近の組織率の低下も著しい(別表参照)。
 渡久山書記長はその原因として、現代の若い教職員の価値観の多様化や組合のマイナスイメージを挙げる。日教組の数年前の調査では、組合は「ダサイ」「かっこ悪い」などの意見が目立ったという。
 横山委員長は「日教組はかつての階級闘争とか政治闘争のイメージで見られ、正しく理解されていない」と言うが、戦後長い間、子供を“人質”にとって闘争に明け暮れた日教組が信用を回復するまでには、かなりの時間がかかりそうだ。
 
【日教組組織率の推移】
     (文部省調べ)
昭和33年 86・3%
  34年 84・7%
  35年 81・7%
  36年 80・2%
  37年 74・0%
  38年 72・9%
  39年 68・7%
  40年 63・3%
  41年 62・2%
  42年 57・2%
  43年 56・7%
  44年 55・7%
  45年 56・2%
  46年 56・0%
  47年 55・4%
  48年 55・1%
  49年 55・6%
  50年 55・9%
  51年 56・3%
  52年 55・2%
  53年 52・9%
  54年 52・4%
  55年 52・0%
  56年 51・3%
  57年 51・1%
  58年 50・5%
  59年 50・0%
  60年 49・5%
  61年 48・9%
  62年 48・5%
  63年 47・7%
平成元年 46・7%
    (日教組分裂)
   2年 35・7%
   3年 35・2%
   4年 35・0%
   5年 34・4%
   6年 34・1%


 
 
 
 
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