2003/05/16 読売新聞朝刊
[社説]中教審諮問 教育行政の座標軸を描けるか
揺れ動く教育行政の座標軸を確定させたい。そんな切羽詰まった思いを感じさせる。
遠山文部科学相が、小中高の教育改革の推進について、中教審に諮問した。包括的テーマに関する諮問は、戦後四度目となる。
これまでの諮問は、次の時代の教育のあり方をストレートに問いかけたものだった。今回は、教育における国の役割の再定義を求めている点で異例である。
経済財政諮問会議などから、教育の地方分権推進を促されている文科省が、中教審に救いを求めた形だ。
教育について、国と地方自治体がどのように責任と権限を分担するかは、国家の将来にかかわる問題だ。財政的観点だけでなく、子供の教育に何が有益かという立場から論議を進めねばならない。
焦点の一つは、公立小、中学校教員の給与だ。今、教員給与は国と都道府県が二分の一ずつを負担しているが、総務省などは、国庫負担金方式を廃止し、一般財源化することを主張している。
一般財源化されると、使途に制限がなくなる。自治体は教員給与を抑え、その分で非常勤講師を多数採用し、少人数学級などを実現することもできる。他方、教育以外の分野に財源を振り向けることも可能となる。
自治体の裁量権拡大は大切だが、地域の財政事情で給与に極端な差がつくのは好ましくない。二分の一補助をやめ、一定額を国庫負担とする方策もある。
文科相は、学校の管理運営のあり方についても、諮問した。株式会社などによる学校設立が、構造改革特区に限って可能になったのを受けてのことだ。
教育環境の整備には、自治体が責任を持つ方が望ましいものも多い。
だが、教員の質の向上や図書の充実など、様々な方策が講じられないと、子供の学力と社会性を育(はぐく)むという目的も達成できない。教育環境は、教育の質とも密接に関連する。
かつて、教育の責任と権限はどこにあるのかをめぐり、旧文部省と日教組との間で、価値観の違いに基づく激しい論争があった。いま、財政上の問題を基に環境整備をめぐる国と自治体の役割の明確化が論議の的になってきたことは、時代の変化を端的に示している。
教育の基本にかかわる今回の諮問は、社会の急激な変化に教育行政が追いついていけない現実を反映している。今ごろになって中教審に、理念の提示を求めるのは文科省の怠慢でもある。
教育の主体である子供のため、という視点から、教育制度の新たな枠組みを見いだすよう、中教審に期待したい。
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