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2003/04/06 読売新聞朝刊
[社説]高校新要領 「総合的学習」を生かせるか
 
 多くの小中高校で明日、新学期が始まる。
 高校では新一年生に対し、新学習指導要領に基づく授業が開始される。小中学校では昨年から、既に導入されている。
 新指導要領の導入で、小中学校では教科内容が削減された。その結果、学力の低下を招いたと批判を呼んだ。
 文部科学省は、小中学校に「ゆとり」を導入することで子供たちは学習への意欲と関心を持ち、その基盤の上に高校で濃密な学習を展開するとしてきた。それにより、高卒段階での学力は以前と同程度を維持できる。そんな説明を繰り返してきた。
 新指導要領では、卒業に必要な最低単位数を引き下げ、選択科目を増やすなどして、高校の裁量権を拡大している。高校が独自に科目を設定することも認められた。生徒の学力や関心、進路が多様化していることに対応するためだ。
 裁量権が拡大した分、高校の責任は重くなる。学校の実情に応じた教育課程に基づき、しっかりとした学力を生徒につける取り組みを求めたい。
 生徒が特定の課題を探求し、自分の生き方などを考える総合的学習も、高校で必修となる。
 生徒が自ら選んだテーマに関する卒論を作成したり、地域での職場体験を実施したりするなど、優れた成果を上げている高校も既にある。
 だが、全体的に、総合的学習に戸惑いが目立つ。一年生からの総合的学習の履修を先送りする高校も少なくない。
 高校が総合的学習に積極的ではない背景には、新要領で中学の教科内容の多くが高校に回され、それに対応するのに手一杯という事情もある。国立大学が試験科目を増やすことも、影響している。
 総合的学習は、学んだ知識を実際に生かすことも目的としている。既に小中学校で実施されているが、学習量の少ない年少者には難しいという声もある。
 高校生なら対応できるのかどうかが、試される。進路意識や職業観を養う機会でもある。
 進学校であれ、就職する生徒の多い高校であれ、それぞれに応じた総合的学習がある。それを追求して欲しい。
 大学側からは受験生に、知識だけではなく、論理的な思考力、判断力などの広い範囲の学力を求める声が強い。それはこれから求められる学力でもある。
 まず基礎学力の習得が求められるのは当然だ。その上に、総合的学習をどう位置づけ、思考力などを生徒に身につけさせていくか。バランスのとれた学力形成に力を注ぐべきである。

 
 
 
 
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