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2003/03/21 読売新聞朝刊
中教審答申 戦後教育抜本見直し 「愛国心」「公共精神」 表現が二転三転
 
 二十日の中央教育審議会(鳥居泰彦会長、委員三十人)の教育基本法見直し答申は、新たに追加すべき基本理念として「国を愛する心」や「『公共』の精神」などを掲げ、「個人の尊厳」への偏重や「自由と放縦のはき違え」などを指摘されてきた戦後教育を抜本的に見直す意味を持つ。ただ、いずれの論点にも、委員から賛否両論が相次ぎ、表現は二転三転した。
 「国を愛する心」は、昨年十月にまとまった中間報告の素案段階では「愛国心」と表記されたが、「偏狭なナショナリズムとなってはいけない」などとする五、六人の委員の批判を受け、「国を愛する心」との表現に落ち着いた。また、「国家至上主義的考え方や全体主義的なものになってはならない」との付帯意見も付いた。
 「『公共』の精神」も、「戦前の滅私奉公になってはいけない」との委員二、三人の注文を踏まえ、国などの押しつけでないことを強調するため、「主体的に参画する『公共』の精神」などと表現を工夫。実質審議を終えた今月十日以降も、委員の意見を募って十数か所にわたって微修正を重ねた。
 梶田叡一委員(京都ノートルダム女子大学長)は、「五十年先を見通して教育を論じる際に、半世紀以上も前の大戦前へのノスタルジア(郷愁)も、過度の反省も有害無益だ」と述べ、今後は未来志向で議論することを求めている。
 基本理念のほか、議論を呼んだのは「宗教教育」だった。少年事件の凶悪化を背景に、「心の教育」の一環として、遠山文科相は「宗教的情操の涵養(かんよう)」という視点からの見直しを諮問した。
 二月十七日の中教審基本問題部会では、小野元之委員(前文科次官)が「宗教を大事にするといった前向きな表現があっていい」と口火を切ると、「宗教教育は異文化理解のため必要だ」という積極論と、「宗教は家庭で教えるべきものだ」との慎重論が交錯。結局、憲法が定める「信教の自由」という制約もあり、主に宗教の基礎的知識や意義などを教えることの重要性を記すのにとどめた。〈中教審答申の要旨23面〉
 
《中教審の教育基本法見直し答申の骨子》
一、新たに追加する理念として〈1〉「公共」の精神、道徳心、自律心の涵養〈2〉日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心の涵養〈3〉男女共同参画社会への寄与――などを規定する。
一、国と地方公共団体の責務、教育振興基本計画策定の根拠を規定する。
一、家庭の役割、学校・家庭・地域社会の連携・協力が重要と規定する。
一、宗教に関する寛容の態度や知識、宗教の持つ意義を尊重する旨を規定する。
 
〈中央教育審議会〉
文部科学相の諮問機関。教育の振興や生涯学習の推進、スポーツ振興に関する重要事項を調査、審議する。文科省は中教審の答申を基に政策や法律改正などを進める。

 
 
 
 
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