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2003/02/08 読売新聞朝刊
習熟度別指導 公立小・中6割超に拡大 能力伸ばす方策じっくり検討を(解説)
 
 公立の小中学校で、習熟度別による少人数指導をする学校が六割を超えた。指導法など、中身をしっかり考える必要がある。(解説部 中西茂)
 「できる子とできない子を分けて教えるなんて、差別じゃないか」
 教員にも保護者にも、かつてはこんな反応が珍しくなかったのではないか。習熟度別指導のすすめは、最近言われ始めたわけではないが、特に公立の小中学校段階では、これまで限られた学校での導入にとどまっていた。
 しかし、文部科学省の集計で、今年度は公立小学校の63・1%、中学校は64・7%で、何らかの習熟度別少人数指導をしていることがわかった。小学校では算数、中学校は数学や英語が多い。二年前は小中とも三割台であり、特に中学は倍増している。
 急増の背景には学力低下批判がある。昨年一月、批判を受けて遠山文科相が発表した「学びのすすめ」では、習熟度別の少人数指導が推奨された。今年度からは全国八百五校の小中学校が「学力向上フロンティアスクール」に指定され、少人数指導など、個人に応じた指導を義務づけられたことも影響している。
 そもそも同省が二〇〇一年度からスタートさせた第七次教職員定数改善計画は、少人数指導のための教員増を掲げている。その目標は五年間で二万二千五百人増。複数の教師が共同で授業をするチーム・ティーチング推進が旗印だった二〇〇〇年度までの第六次計画が、八年間で一万六千人増だったことと比べても、力の入れようがわかる。
 しかし、国がすすめるからといって、ただ「右へならえ」でいいわけはない。学級崩壊が契機になって、小学校高学年の算数で五年前、自主的に習熟度別授業に取り組んだ神奈川県内の教員グループの一人(40)は、「本当に子どもたちに必要性があって広まっているのだろうか」と疑問を投げかける。
 このグループのケースは、学級崩壊の原因に、児童が授業をわからないことがあると見た。教師の側が、点数で機械的に振り分けることはせず、児童自身にクラスを選ばせた。結果は、成績の芳しくない子がわかる喜びを味わい、教室の荒れも収まるなど、当の児童や保護者に好評だったという。
 ところが、増員がない中でしわ寄せを受けた他の教員らの不満や、他学年の保護者の漠然とした不安などから、二年後には通常の授業に戻ってしまった。周囲に理解がなかった例と言えるだろう。
 習熟度別指導は、奈良市などで先月開かれた日本教職員組合の教育研究集会でも繰り返し話題に上ったが、依然として、「子どもに差別感、疎外感を生む」と反対する教員が少なくなかった。取り組み方次第で毒にも薬にもなるはずで、急激に広まった今こそ、じっくり討議すべきなのに、「上からの押しつけ」批判に終始するなど、建設的意見が交わされたとは言い難い。
 英国の研究機関に勤務経験があり、教研集会の助言役も務めた中央大の小林道正教授(数学教育)は「英国では、一人ひとりの能力が違う中、なぜ一斉に授業ができるのかと考える。わからない子をそのままにして先に進んでいくことこそ差別だ」と訴える。
 子どもの能力を伸ばす方策について、社会の受け止め方が変わることも望みたい。

 
 
 
 
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