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2001/01/25 読売新聞朝刊
「ゆとり教育」を転換へ 学力低下懸念に対応(解説)
 
◆「新要領」解釈論では限界
 子どもたちの学力低下を食い止めるため、文部科学省が「ゆとり教育」の転換を発表した。学校への影響は大きい。だが、根本問題から逃げている。(編集委員・勝方信一)
 小中学校で二〇〇二年度から実施される新学習指導要領は、必修教科の内容を三割削減している。「学力が低下する」と反対意見が根強い。小野元之文部科学次官が二十四日、都道府県教育長協議会で「ゆとり教育」見直しを明らかにしたのは、この学力低下問題を意識してのことだ。ポイントは二つある。
 まず、新指導要領の内容を「最低の基準」としたことだ。これまで指導要領は「到達目標」「標準」と理解されていた。多くの教師は要領の内容を教えさえすればよいと考えてきた。しかし、最低基準となると、理解の早い子にはより高度な内容を教えねばならない。
 次に、「総合的学習」について教科との連携を強調した。従来は体験学習、課題解決学習を重視してきた。それを「体験だけでは不十分」とした。
 明らかな路線転換だ。さる五日、本紙が同省の見直し方針を特報した後、現場の教師からは「指導要領を超える内容を教えるのは逸脱とされてきたのに・・・」「総合的学習の準備をやり直さなくてはならない」などの電話が同省に殺到した。
 
◆省内に見解の違い
 同省内の一部の動きも、次官の発言が劇的な転換であることを裏付ける。本紙報道の後、同省首脳が関知しない「文部科学省見解」と題する文書が教委関係者らに流された。「見直しは考えておらず、具体的な指導を都道府県教委に対して行うことも考えていない」とあった。
 「ゆとり教育」について、政策全般を担当する大臣官房と、小中学校を管轄する初等中等教育局とで見解の違いのあることは以前から指摘されていた。その対立が土壇場で表に出た。
 そうした事情を反映してか、次官の発言は、新指導要領の受け取り方に「誤解」があるとし、本来の趣旨を改めて説明するという形をとった。
 本紙は昨年十一月の「読売教育改革緊急提言」で、「『教育改革』を改革せよ」と訴えた。同省の転換はこれに沿ったもので、教育改革を現実に即したものにしようとしている点で評価できる。だが、学力低下論議を新要領の解釈論でかわそうとしている。分かりにくさが残る。
 同省は伸びる子を伸ばすため、習熟度別学習を推進する考えだが、新要領には「細部にわたることなく、必要な範囲の指導にとどめる」などの制限が多い。教科書の記述も抑制されている。これをどうするか。
 さらに根本的な問題は、一九七六年の教育課程審議会答申からの「ゆとり」路線をどう見るかだ。
 当時は受験過熱や詰め込み学習の解消が最大の課題だった。九八年答申も、「子どもたちは、ゆとりのない忙しい生活を送っている」と同様の認識だ。
 だが、昨年十二月発表の国際教育到達度評価学会(IEA)調査は、日本の子どもの学校外の学習時間が調査参加国中、最低レベルであることを示した。子どもをめぐる状況は、受験過熱時代とは違ってきている。
 「ゆとり」路線をきちんと総括し、現在の状況を踏まえた教育理念を打ち立てることが求められる。子どもの学力は、要領の解釈の違いで済ませられる問題ではない。

 
 
 
 
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