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2000/12/23 読売新聞朝刊
[社説]教育国民会議 提言の改革実行を注視したい
 
 首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」が最終報告をまとめた。大胆かつ建設的な内容で一部は既に政策化も始まっている。会議の労を多としたい。
 論議を呼んだ教育基本法については、最終報告は「新しい時代にふさわしいものを」と中間報告から一歩踏み込み、政府に見直しを求めた。
 制定から五十年を経て教育基本法が時代とそごを来していることは、私たちも繰り返し主張してきた。一部死文化している法律を、これからの時代に有用な、使い勝手の良いものに改める。それをはばかる理由などない。
 報告は改正の観点として「生涯学習」や「伝統」などを挙げたほか、教育振興基本計画の策定を同法で規定するよう求めている。教育基本法に真に息を吹き込むにはここがポイントになる。
 例えば科学技術基本法は政府に、基本計画の策定とそのための財政措置を義務付けている。これにならって教育改革への総合的、集中的な政策的投資を促すことを報告は狙っている。
 新世紀に日本が国際社会で十分な役割を果たして行けるかどうか。そのカギを握るのは教育にほかならない。いわば国家戦略としての教育振興基本計画を基本法に位置づける意義は大きい。
 文部省は既に改正へ向けたプロジェクト・チームを立ち上げ、来春には中央教育審議会に諮問する予定だ。さらに国民的な議論を続けて行きたい。
 奉仕活動については最終報告から「義務」の言葉はすべて消えた。根強い反発があったためだ。
 しかし、義務化に反対した人も、多くは道徳教育や体験教育を充実させることには賛成している。他を思いやり、社会に貢献できる子どもを育てるために、教育でできることを探ってみる。それに反対する人も少ないだろう。
 文部省は国民会議の論議を受けて、奉仕活動の受け皿の検討を始めている。学校に過重な負担がかからないよう教育委員会やPTAを中心に、NPO(非営利団体)にも幅広く応援を頼みたい。
 最終報告の提言は十七項目にわたっている。文部省は、教育基本法改正や奉仕活動支援策のほかにも、教育委員会改革や教員の評価・処遇制度の創設など、一部の提言を具体化するための法令の改正作業を進めている。
 教育改革で政権浮揚を狙う森内閣の事情もあるが、異例の素早い対応はそれなりに評価したい。ただ、残された課題にも早急に手を着けてほしい。提言のつまみ食いに終われば、国民は決してそれを見逃さないだろう。

 
 
 
 
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