2000/09/23 読売新聞朝刊
教育改革国民会議の「基本法」論議 見直しの論点鮮明に(解説)
◆国民の自覚、家庭教育など
教育改革国民会議は二十二日の中間報告で、教育基本法の見直しについて国民的な議論が必要だと提言した。 政治部・日高徹生(本文記事1面)
一九四七年に制定された教育基本法は、前文と、教育の目的、教育の方針、義務教育、宗教教育など十一か条からなる。教育の基本理念を定め、教育上の諸法令の根拠法の性格を有している。
前文で、「日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する」とうたっているように、日本国憲法とは切っても切れない関係にある。
教育の目的を記した第一条には、「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成」とある。
「教育勅語」を支柱とした戦前の日本の教育は、天皇制のもと、国家への奉仕を重視したため、個人の価値や尊厳を十分に尊重したとはいえなかった。
戦後の民主主義教育はまさにその「個人の価値や尊厳」からスタートしたわけで、新たな日本人像を示した教育基本法が大きな役割を果たしたのは言うまでもない。
しかし今、二十一世紀の少子高齢化社会を目前に、青少年の凶悪犯罪、いじめや学級崩壊など、教育をめぐる状況の悪化はのっぴきならないところまできている。
教育改革国民会議が教育基本法について、「幅広い視点からの国民的な議論が必要」と指摘したのは、〈1〉抜本的な教育改革を実現するには教育理念の根本から洗い直す必要がある〈2〉制定後、半世紀以上を経て時代にそぐわない点が出てきた――との理由からだ。
論議の過程では、「国家や郷土、伝統、文化、家庭、自然の尊重などが抜けている」(前文、一条)「宗教教育の規定があるため情操教育が十分にできない」(九条)など改正に前向きな意見が出る一方で、「もっと時間をかけて議論すべきだ」との慎重論も根強く、改正の是非や方向までを明示することはできなかった。
とはいえ、かつての日教組と文部省のイデオロギー的対立を背景に、教育基本法が憲法と同様、修正はおろか、論議すらタブー視されてきたことを考えると、同会議が一か条ごとに改正のための検討を重ね、「国民的議論」を呼びかけた意義は決して小さくない。
ナショナルアイデンティティー(日本国民としての自覚)、行き過ぎた個人主義の是正と「公」への貢献、家庭教育や生涯教育などの新たな位置づけ――をどう盛り込むかなど、見直しの論点が次第に明確になってきたからだ。
今年一月の通常国会から、衆参両院に「憲法調査会」が設けられ、五年をめどに報告書をまとめることが決まっている。憲法と密接な関係にある教育基本法が国民的論議の対象となるのは、自然の流れでもある。
中間報告の提言を受け、政府は文相の諮問機関である中央教育審議会などで教育基本法見直しの具体的な論議を始める。
一刻も早く教育の再生を図り、二十一世紀の日本人像を確立するため、早期に結論を出すことを期待したい。
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