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2000/05/21 読売新聞朝刊
[社説]少人数指導の導入を進めたい
 
 文部省が今後五年間は四十人学級を維持した上で、数学、英語などでは二十人程度の少人数指導をめざす方針を決めた。実現へ向けて関係者の努力を強く求めたい。
 小、中学校の教師の定数は、法律によって、現在は一クラス四十人を上限として算定されている。いじめや学力低下などの原因をこの学級規模に求め、行き届いた生活指導、学習指導をするためには、もっと規模を小さくすべきだとの声は根強い。
 文部省が今回示した向こう五年間の教職員配置改善計画の概要が、四十人学級の原則を崩さなかった理由は、何よりも財政状況にある。義務教育教員の人件費は国と都道府県の折半で、学級規模を小さくするには、ばく大な財源が必要になる。
 ほかにも、子どもが社会性を培うには四十人程度が適正規模だとする説がある。先日発表された文部省の学級崩壊に関する委託研究結果でも、学級崩壊と学級規模に相関関係はないことが明言されている。これらも一定の説得力を持つ。
 ただ文部省は、四十人学級を原則としながら、都道府県がそれを下回る基準を設けることは認める方針で、法も改正する。県が独自財源を用意してまで少人数学級編成に踏み出すことは考えにくいが、市町村には希望は多い。法改正を、こうした自治体に道を開くことにつなげてほしい。
 文部省が打ち出した少人数指導は苦肉の策には違いないが、実現すれば、学級規模の据え置きを補うだけの効果はあろう。
 学習上の進度に差が出やすい算数や理科について、二つのクラスを三つに分けて三人の教師が指導することなどが可能になるという。これまで平均的な進度についていけなかった子どもにも、あるいはそれに飽き足らなかった子どもにも、それぞれきめ細かな指導ができるに違いない。
 生活の場としての学級と、勉強する集団とを別にすることにも意義がある。小学校では一人の教師が同一のクラスを一年間通して指導するという形が変わることになるが、一人の子どもに多数の教師がかかわることで、子どもたちがある種の息苦しさから解放される効果が期待できる。
 文部省はこうした少人数指導の要員は、二万数千人の定数増と非常勤講師の活用で賄えるとしている。しかし、実現には、文部省、都道府県教委がよほどの覚悟で臨まなければならないだろう。
 これまで、五十人学級から四十五人、四十人と学級規模が縮小されるたびに、教員一人当たりの持ち時間数は減少してきた。教育条件改善のためであるはずの教員の定数増が、現実には労働条件改善に使われてきた一面があることを示している。
 定数改善を、教員のためではなく、子どものために生かす。この基本を踏み外すことのないよう、関係者は教員の理解を得る努力を惜しんではならない。
 すべての小、中学校で、一日も早く少人数指導を実現してほしい。それとは別に、政府が、やりくりによってではなく、余裕を持って少人数指導ができるような抜本増員の道を探るべきは言うまでもない。

 
 
 
 
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