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2000/07/28 読売新聞朝刊
[社説]教育国民会議 大胆提言が問う政府のやる気
 
 首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」の分科会報告がまとまった。論点は多岐にわたっているが、大胆な提案も少なくない。実際の教育改革にどうつなげて行くか、今後の論議が楽しみだ。
 今日の教育の課題は大きく分ければ二つある。凶悪な少年事件の頻発やいじめ、学級崩壊などに見られる子どもの心の問題への対応が一つ、新時代を切り開いていく創造性に富んだ人材をどう確保するか、その育成策が二つ目だ。
 前者について、国民会議が示した案の中で最も注目すべきは奉仕活動の義務化だ。小中学生は二週間、高校生には一か月間、農作業や介護などを体験させるという。有意義な提案で大いに賛成したい。
 兵庫県では、すべての公立中学二年生に一週間社会体験をさせる「トライやる・ウイーク」を二年前から実施している。地域の福祉施設や職場で汗を流した子どもたちは、生まれ変わったようになるそうだ。不登校だった生徒がこれに参加した後、登校を始めたケースもあるという。
 小中学校の教員免許を取ろうとする学生には、二年前から福祉施設などでの一週間の介護が義務付けられているが、これも大きな成果をあげている。体験したほとんどの学生が、全く知らなかった世界を体験できたことに感動するという。
 文部省は国民会議の提案を教育課程の中にどう取り込むか、今すぐにでも検討を始めてほしい。将来的には十八歳の全国民に一年間の奉仕活動を義務付ける案も示されている。技術的に困難な問題もありそうだが、今後大いに論議したい。
 人材育成についても大胆な提言が多い。小学校入学を五歳から、大学入学を十五歳からでも可能にという提案は、現在の教育システムを柔軟なものにして、一人ひとりの資質や能力に応じた選択の幅を広げる上で大きな意味がある。
 大学の学部を主として三年間とし、これを教養教育にあて、四年目からロースクールなど専門職業教育の大学院などに進む案にも注目したい。高い教養に裏打ちされた専門家の養成という時代の要求にこたえる効果的な方法と言える。
 教育基本法については、改正の必要性があるという基本認識が示された。法律を時代にあった形に適宜変えて行くのはあまりに当然のことだ。全体会議で続けて行くという今後の議論を見守りたい。
 国民会議の提言は現行制度の中でも実現可能なものが少なくない。しかし、手間を惜しんでは大きな成果は得られない。提言を実りあるものにするには、思い切った制度改革や誘導策、支援策を講じる必要がある。今後は提言を実現するための道筋についても論議を深めてほしい。
 国民会議は首相直属の諮問機関と位置づけられている。政府には提言を実行に移す重い責任がある。文部省は、提言が実現できるかできないかではなく、実現するにはどうしたらいいかについて、今から考えを巡らせておく必要があろう。

 
 
 
 
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