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1999/05/09 読売新聞朝刊
[社説]校長が指導力を出せる学校に
 
 不登校、学級崩壊などを解決するため、画一的な学校ではなく、多様で個性的な学校づくりが求められている。その実現には校長のリーダーシップが欠かせない。
 学習指導要領の改訂で予定されている総合学習の時間の導入や、科目選択の拡大にも、学校あげての取り組みが必要だ。
 校長は学校教育法で、「校務をつかさどり、所属職員を監督する」と規定され、地方教育行政法で教育委員会への人事具申を認めている。法律上の権限は大きい。
 にもかかわらず、指導力を十分に発揮できない体制が学校に残っている。埼玉・所沢の高校では、卒業・入学式をめぐって教員や生徒との対立から混乱があった。教委と組合の板挟みになった広島の高校長が自殺するという痛ましい事件も起きた。
 リーダーシップの発揮を阻害する一因となっているのが、職員会議である。
 校長、教頭、全教員らで構成する職員会議は、校長が教職員から意見を聞き、意思疎通を図って円滑な学校運営をするために置かれているという考えが主流だ。
 しかし、役割が法で明文化されていないこともあって、一部の学校が内規で事実上の意思決定機関と位置づけていた。
 東京都教育庁の昨年の調査では、都立高の80%近い百六十五校にのぼり、大阪でも府立高の13%にあたる約二十校あった。
 こうした学校の中には、校長が打ち出した習熟度学級の導入などの特色ある学校づくりの方針を、職員会議が反対して実施できなかったケースもあったという。
 昨年から今年にかけ、東京、広島、大阪が相次いで学校管理規則を改正し、職員会議の項目を盛り込んだ。
 東京の場合、職員会議を「校長がつかさどる校務を補助させるため」のものとし、「校長が招集し、その運営を管理する」と規則に明記した。校長の持った権限の大きさを考えると、当然の措置である。
 学校管理規則で職員会議の規定があるのは、十五都道府県だけだ。規則改正を急ぎ、制度的な根拠をはっきりさせたい。
 校長が組織的、機動的に学校を運営していくためには、文部省が一九七六年に制度化した主任制度の見直しも必要だろう。
 主任制度には日教組が強く反対した経緯がある。教委か校長が任命することになっているものの、実際には教員の意見に従って主任人事を決めている県もある。
 制度が一部の地域で形がい化しているのは間違いない。さらに、教務、学年、生徒指導などと種類が固定され、学校の実態に対応できていないとも指摘される。
 主任は学校の実情、校長の必要に応じて設置できるようにする必要がある。現在の枠組みや名称にこだわらずに、柔軟な発想で校長のスタッフを充実させることこそが求められている。それは、校長を孤立させず、独走をも防ぐ道だ。
 文部省は校長がリーダーシップを発揮することを求めた中教審答申をもとに、職員会議や主任の役割などについて、法令の改正を検討している。学校という組織の再生がかかるその行方に注目したい。

 
 
 
 
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