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1999/03/02 読売新聞朝刊
[社説]多様な生徒を伸ばす高校教育を
 
 高校で二〇〇三年度から実施される新学習指導要領が公表された。高校生が興味や能力に応じて学校を楽しみ、生き方を見つめることを狙っているが、課題も多い。
 新指導要領で特徴的なのは「必修」が思い切って柔軟化されたことだ。普通科の場合、三年間の必修単位は三十八単位から戦後最低の三十一単位に減らされた。
 すべての高校生が共通して学ぶ必修教科は保健と体育だけとなり、複数の科目から選ぶ選択必修を原則とした。数学と理科ではその選択肢の一つとして「基礎」をうたった科目も新設された。
 高校が限りなく全員入学に近付き、一口に高校生と言っても学力や関心などには大きなばらつきがあるのが実情だ。全高校生の三分の二は授業を理解していないという調査結果も記憶に新しい。
 新指導要領はこうした現実を前提に、不得意教科が過度の負担にならないよう配慮したようだ。挫折感ではなく達成感を味わわせ、ともかくまず学ぶことの楽しさを身に付けさせることは確かに必要だ。
 何より高校中退者の減少につながることが期待できる。高校時代はそれで終わっても、その後の人生のどこかの段階で改めて学ぶ意欲が芽生える可能性もある。
 ただ、選択肢が増えても、各学校で教員数などに余裕がなければ学校単位での選択となって、生徒一人ひとりの選択には結び付かない。文部省や教育委員会の一層の支援が必要なことは言うまでもない。
 「総合学習」や「学校設定教科・科目」の新設など、学校独自の取り組みを可能にする弾力化が一層進んだことも、指導要領改訂のもう一つのポイントだ。
 小中学校でも新設される総合学習は、学習体験や生活体験を積み重ねてきた高校生で最もその本領が発揮されると言ってもいい。自ら考える力をつけることは、進路など将来の生き方を考える上でも重要だ。
 必修条件の切り下げで学力低下を懸念する声もある。発展的な学習を希望する生徒に、小手先の受験指導などではなく、こうした時間を使って工夫を凝らした指導をすることも必要になろう。
 新指導要領によって、高校の授業は一挙に多様化し、生徒一人ひとりが学ぶ内容もバラエティーに富んだものになる。効率や受験生確保を優先した大学入試の改善はいよいよ急務となった。
 「医学部合格者が生物を学んでいない」「基礎教科の補習が必要」などの不満を大学関係者からよく聞く。しかし、これはむしろ大学側に責任がある。
 大学で学ぶために何が必要かを示すためにこそ、入試という手段があることを忘れてはならない。入試で課す教科・科目、その到達度を通じて、大学は自らが求める高校生像をきちんと示す必要がある。
 自ら学び、考える力は大学生には欠かせない資質だろう。総合学習の成果を何らかの形で反映する大学入試があってもいい。総合学習を小、中、高校の各段階で定着させる効果も期待できる。センター試験も例外とせず、研究を求めたい。

 
 
 
 
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