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1997/10/05 読売新聞朝刊
[社説]「考える力」をつけるには
 
 今の学習指導要領は「新学力観」、つまり、自ら考え、判断し、表現する力の育成を重視することを柱にしている。
 その定着ぶりを探るために文部省が実施した学力調査の結果がまとまった。大づかみにくくれば、次のようなものになる。
 小、中学生のいずれも、知識や計算能力はおおむね着実に身についているが、思考力や分析力、表現力はまだ弱い、特に中学の理科と社会でその傾向が目につく。
 テストが、指導要領の趣旨がまだ十分根づいていない時期に実施されたという事情をある程度割り引くにしても、知識の伝達に傾きがちな授業から抜け切っていないことがうかがえる。子供の方も、新しいタイプのテストに戸惑ったろう。
 テストの結果も踏まえて、教育課程審議会が、中間まとめに向けて大詰めの作業を進めている。教育内容を大胆に削り込み、ゆとりをもって考える力のつく教育ができる環境を整えなければならない。
 テストの結果について、文部省は次のように分析する。
 「話や文章の内容を理解する力は良好だが、読み取ったことについて、自分の考えをもち、自分の言葉で伝える力、目的や場面にふさわしい表現を工夫する力はやや低い」(中学国語)
 「数量や図形のおよその大きさや形をとらえたりする力など数学的な考え方が、計算や作図の技能などに比べると十分とは言えない」(小学算数)
 「社会的事象の基礎的な知識・理解は良好だが、学習内容から疑問を引き出し自らの課題を設定して調べる力、資料を引用する力や多面的に思考し自分の考えを表現する力については低い」(中学社会)
 こうした傾向は、国際的な調査を含めて、かねてから指摘され、日本の教育の課題であり続けた。
 問題は、経済面などで先進国へのキャッチ・アップが終わった現在、かつてのように効率的・画一的に教え込む教育は通用しなくなっていることだ。
 「モデルなき時代」を迎えて、子供たちが、豊かな個性と創造性を発揮できる環境を整える必要に迫られている。
 教育課程審議会は、基礎・基本の徹底と選択の拡大の方向で論議を進めている。ポイントとなるのは、教科の枠を超えた「総合的な学習の時間」の新設だろう。
 国際理解や環境問題、福祉などのテーマで、児童・生徒に課題発見・探究活動を促す新しいタイプの授業だ。
 そこでは、資料の集め方や調べ方、まとめ方、報告や発表、討論などの手法がふんだんに導入される。こうした学びを通じて生きる力を培うのが狙いだ。
 この「生きる力の教育」は、実は現在の新学力観の連続線上にある。すべての現場教師がこのことを自覚して、授業のありようを工夫することを期待したい。
 テストの結果は、遊びや実体験の不足や過度の塾・けいこごと通いも無関係ではない。子供が人間らしく育つことの大切さを家庭でも問い直さなければならない。

 
 
 
 
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