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1997/03/31 読売新聞朝刊
[社説]学校にもっとボランティアを
 
 この一、二年、教育界のボランティアに対する関心が急速に高まりつつある。さまざまなタイプの学習や、その発展としての校外での活動のほか、外から学校を支援するボランティアも出始めた。
 背景には、阪神大震災を契機に、ボランティアに対する見方が変わってきたこと、子供や若者に体験不足などからくる社会性や思いやりの欠如がめだつこと、そして保護者や地域も、教育機能を分担しようとの機運が芽生えてきたこと、などがある。
 全体としてまだ主流になっていないが、歓迎していい現象だ。さらに深みと広がりが増すことを期待する。
 学習の一環としては、車いすやブラインド・ウオーク(目隠しで歩く)などを体験したうえで、福祉施設を見学するタイプなどがある。あるいは、空き教室にできた老人施設を拠点に、学校・地域ぐるみの交流を続ける例も出てきた。
 さらに、自然探検学習がきっかけで、街の樹木に名札をつけたり、あるいは、触れ合い給食が縁で、地域の老人との合同ゲートボールの参加に発展した例もある。
 こうした学習や体験を通じて、児童・生徒自身による「疑問」や「問題発見」を大切にし、「解決への道筋」を考えさせるものになるといい。
 例えば福祉分野では、人権や「生と死」などを、環境分野では、汚染源の調査やリサイクル活動などを通じて、自然保護や資源の問題など学ぶ機会にもなり得る。
 さらに、複数の教科内容を取り込んで総合的な学習と位置づけるほか、体験学習や課題学習を、「生きる力」につなげていくなどの工夫が求められよう。
 学校の「外から中へ」と入り込む大人のボランティアも、もっと増やしたい。
 例えば、農家の人が畑作の指南をする。女性のグループが、定期的に童話や昔話の読み聞かせをする。そんなタイプのボランティアを見聞きするようになった。
 ほかに、図書館で本の整理を手伝うとか遠足の引率を買って出たり、スポーツ大会の運営に参加する事例もある。
 この動きを広げていくには、学校をさらに開く以外にない。「地域も教室であり、教材であり、先生である」と見る発想が必要だ。授業参観や研究会を、保護者だけでなく市民にも公開したことが、ボランティアとの連携につながった学校もある。
 地域の大人が、自らの持ち味や得意技、知恵と経験を差し出すことは、生きがいにもなるだろう。子供や他のボランティアとの交流が生涯学習の機会にもなる。
 文部省は、この一月にまとめた教育改革プログラムで、「学校支援ボランティア」の推進をうたっている。
 保護者、地域人材や団体、企業などが、学校をサポートする仕組みは、教育機能を広く分担していこうとの発想からだ。その気になれば、そう難しいことではない。すべての学校に張りめぐらせたい。
 学校の内外で、ボランティア学習と活動が展開する。そうすれば、学校の再生と地域の活性化につながるはずである

 
 
 
 
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