日本財団 図書館


1997/01/20 読売新聞朝刊
[社説]教師の意識が変わり始めた
 
 日教組の路線転換が、地方や現場レベルにも徐々に浸透しつつある。先ごろ、岩手県で開かれた教育研究全国集会でも、教師の意識の変革ぶりが見て取れた。
 この傾向がさらに広がりを見せ、ボトムアップの教育改革につながるといい。
 いま教育界が抱える最大の課題は、現行学習指導要領の柱である「新学力観」を着実に根づかせつつ、「生きる力」にどうつなげていくか、に集約される。
 それも、学校五日制の完全実施を視野に入れながら進めなければならない。言ってみれば、二十一世紀の学校像づくりに向けた「助走期間」のさなかにある。
 それを乗り切るためには、まず、教育内容の精選につながるような授業の工夫が欠かせない。教科の枠を超えた総合学習の模索や、選択の幅のさらなる拡大も課題だ。チーム・ティーチング(TT)を有効に機能させる必要性にも迫られている。
 いずれも、個々の教師やチームとして、「腕の振るいどころ」に属するものばかりである。その認識が、学校現場に広がってきたのは歓迎できる傾向だ。
 米作りを通じて、社会科、国語、音楽、理科、図工、道徳を総動員する形で関連づけた総合学習の実践を展開した例がある。クラスの壁を、ヨコ(同学年)だけでなくタテ(異学年)にも取り払って、特定のテーマに取り組んでいる小学校もある。
 中学校では、二年生に十コース、三年生に十七コースの選択教科を用意し、体験学習を織り交ぜる実践のほか、異教科の担当教師のTTで、「表現」「郷土学習」「環境」の総合学習の例などが目を引いた。
 小学校六年の授業で、年間わずか一週間だが、子供が学びたい教科を選択できる仕組みを作った例も興味深い。
 「生徒参加のカリキュラムを検討している」「保護者の意見を教育課程に取り入れる方向を考えたい」など、昨年までは考えられない発言もあった。
 かつてのような教条的な発言が皆無だった訳ではない。だが、それが逆にたしなめられ、無視される光景すら見られた。
 これまでの五日制の取り組みや、目の前の子供の状況から、現場で工夫せざるを得ないとの認識が出てきたのだろう。
 教育課程は、元々「各学校で編成する」ことになっている。ただ、地方教委によっては、例えば、年間授業時数の「標準」を「下限」としてこだわり、学校を細かくしばる傾向が見受けられる。
 規制を緩めて学校の裁量にゆだねる「自由化」路線の趣旨に反するし、指示待ちタイプの教師を増やすだけだろう。
 今年の集会は、学校の中での実践には見るべきものがあったものの、外部と機能分担する発想がまだ弱い。
 理念や言葉の上では、保護者や地域との連携・協力が語られはした。だが、依然として、「上下」の関係で支配的に見る体質が残っている。「水平の関係」を構築し、共に学校を再生する姿勢が必要だ。
 今後の課題は、教師が自らをさらけ出し学校をさらに開いて行くことだろう。

 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION