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1996/07/01 読売新聞朝刊
[社説]なお真価を問われる日教組
 
 日教組は、新たな存在意義の確立に向けて、なお模索の段階にある。それが、新潟県湯沢町で開かれた定期大会の論議を通じて受けた印象である。
 昨年の路線転換は、今年の運動方針でも維持されたが、内部にまだ抵抗体質を残していることも否めない。七十八の単組の連合体という性格から、ある程度やむを得ないとは言え、「学校再生」を担う団体として、一層の努力が欠かせない。
 開会のあいさつで川上委員長は、学校五日制の完全実施に向けて、教育内容の厳選や学校外の新たなネットワークづくりなどを提唱した中央教育審議会の構想に、「基本的に賛同する」姿勢を示した。
 昨年から今年にかけて、日教組は、中央レベルで、連立与党との政策協議を進める一方、経済界との対話や文部省との協議、PTA団体との連携を図っている。そうした活動の積み重ねが、運動方針の「教育が社会の中心目標となるよう努める」などの文言に現れたと言っていい。
 が、連合体内部の状況はどうか。昨年来の各単組の定期大会の動向を見ると、「まだら模様」の図式がまだ続いている。
 例えば、長年の主任制闘争に終止符を打った単組もあれば、日教組本部の路線転換に「歩調を合わせる」運動方針に切り替えたところもある一方で、「本部とは一線を画す」単組や「日の丸・君が代の強制反対堅持」としている地方組織もある。
 地方のこうした状況を反映したのが、大会で浮上した「教師の倫理綱領」の“見直し騒ぎ”だろう。
 一九五二年に作成された綱領(六一年に前がきと解説部分を手直し)は、「教師は労働者である」など十項目から成る。解説を含めて、当時は「社会革命的実践綱領」だといった批判が相次いでいた。
 今の日教組にとっては、言わば、のどに刺さった小骨のようなもので、昨年来、新旧執行部が、何度か「見直し」に言及してきたといういきさつがある。
 この問題について、今大会中の執行部の発言は「見直し検討の事実はない」「今後検討する」「発言は撤回」「歴史的文書として残っている」など日替わりで二転三転した。それも、綱領の中身には一切触れないままの奇妙なやり取りぶりである。
 現時点で見て、中身に問題があるのかどうか、などを踏まえた対応が必要だろう。なし崩し的な処理は許されない。
 そうした中、現実的かつ前向きの取り組みも進んでいるようだ。いじめ・登校拒否の問題を、学校の内外の連携で克服しようとの共通認識が芽生えつつある。
 研修のリストラによるゆとりで、いじめ解決に力を注ぐ体制を作ったり、中学と高校がタイアップした授業研究など地道な取り組みも報告された。
 日教組は今、路線転換の仕上げの段階にある。教育改革のパートナーとしての主体者となるには、挙げて、現場実践に裏打ちされた具体的な提言ができるかどうかにかかっている。それが、「ボトムアップの教育改革」につながるよう期待する。

 
 
 
 
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