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1995/02/18 読売新聞朝刊
[社説]高校改革を加速させるとき
 
 高校中退の増加に、歯止めがかかりつつある。文部省が十七日公表した調査結果によると、三年連続で減少している。進級認定を弾力的に行う高校が増えたことが、じわりと効いてきたようだ。
 ただ中退率(一・九%)は、この三年で、〇・二ポイント下がったに過ぎない。高校の中身に魅力をつけると同時に、入試の方法や選抜の尺度に工夫をこらす必要がある。
 先月まとまった文部省の二つの調査(高校教育改革の推進・入試の改善状況)は、個性化・多様化・多元化がもはや避け難いものだとの認識が、ようやく広がってきたことをうかがわせる。
 だが「点」の取り組みとしては、都道府県教委や高校の意欲が伝わってくるものの「面」としては、まだ物足りない。
 高校改革では、総合学科が今春、十五県で新設され、計二十三校になる。
 今年度制度化された総合学科は、普通科と職業学科の枠を超え、同時に、多彩な選択科目群を用意する「第三の学科」だ。何よりも、個々の生徒が「自前の学校」をデザインできるという強みがある。
 無学年制の単位制高校の開設も、三十三校増えて、全国で八十七校になる。いずれのタイプも、もっと増やす必要がある。
 異なる高校での学習を卒業単位に認める学校間連携にも着目したい。今は十一県、一指定都市で実施中だが、この春から新たに三県で採用される。
 この方式には、単に、他校の授業を選択できるという以上のメリットがある。高校間の格差や序列化に風穴を開ける効果である。積極的な取り組みを求めたい。
 入試の改善では、推薦入学が普通科にも広がってきたほか、面接や、教科によって得点の比重を変える傾斜配点の採用がふえてきたことは歓迎できる。
 ただ、受験機会の複数化があまり進んでいない。大学入試ではかなり前から常識になっているし、異なる方法や物差しを用意する点からも、もっと増えていい。
 さらに、調査書と学力検査の比重の置き方について、高校の裁量にゆだねる姿勢も必要だろう。定員の一部に限って、調査書だけ、あるいは学力検査だけの選抜を導入する道も開かれているはずだ。
 高校全体を、多様で特色のあるものにする。同時に「器」だけでなく、個々の生徒の自己実現やさまざまな学習要求にこたえ得る選択肢を用意する。中身の変革はまた入試のありようともリンクされる。というのが、高校改革の最大のねらいだ。
 この点、生徒から見て、選択教科の設定は十分かどうか。特に、従来型の高校では極端に狭い選択しか用意しないところもまだあるようだ。再考を求めたい。
 カリキュラムの改革と入試とがどうつながるのかも見えにくい。もっと積極的に中学や受験生に伝える努力が必要だ。
 生徒減の中で、高校はいやおうなく「競争原理」にさらされるだろう。それを乗り切るには、中身に付加価値や魅力をつけていく以外にない。中退者の減少につなげる意味でも、一層の努力が求められる。

 
 
 
 
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