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1994/02/03 読売新聞朝刊
[社説]「時代の変化」に戸惑う現場教師
 
 学校というところは、継続性と安定性をことのほか大切にする世界だ。従って、時代の変化に対しても、それらの一番後ろからついていく。
 例えば、学校五日制は、大人の週休二日制の普及状況に合わせ、かつ月一回という形で、おずおずと始めている。選択の自由の拡大路線にしても、この二十年来の価値観や生き方の多様化に応じたものだ。
 そうした世間の変化の流れに対する認識が、教育現場には十分行き渡っていない。その感を強くしたのが、先ごろ終わった日教組の教育研究集会である。認識のずれの中で戸惑い、悩んでいると言っていい。
 今進められつつある教育改革は、「新学力観」と「自己実現」をキーワードにしている。知識の量を競うのではなく、考える力や表現力を重視する教育、あてがいぶちではなく、自分らしさや自分なりの意味を実感できる教育への転換が課題だ。
 この線に沿って、学校の枠組みを柔らかくする方向にある。単位制や総合学科高校の創設や社会人教師の登用がそうだし、不登校児に学校以外での「回り道」を認めたのも義務教育を柔軟にとらえた結果だ。学校の裁量もうんと広げられている。
 ここには、「個人のニーズ」をより大事にしていこうという発想が見て取れる。
 ところが、集会での報告や討論は、これらの課題にこたえ切れたとは言えない。
 学校五日制が完全実施される場合に不可欠な授業内容の精選について「文部省の改訂待ちでいいのか。現場の手で自主編成する必要がある」との発言があった。
 その通りだ。だが、どこをどのようにすればいいのか、あるいは指導方法はどうするか、といった具体的な討論はほとんど見られなかった。日ごろ子供と接している教師集団ならではの提言がほしかった。教科を横断的に見る視点を求めたい。
 評価のあり方の転換への「拒否反応」も気になった。新しい指導要録は、相対評価をわき役に回し、一人一人の可能性や良さを伸ばす趣旨を込めている。そのために「知識・理解」よりも「関心・意欲・態度」や「思考・判断」を重視している。
 批判の根拠は「客観性、公平性を保てない」というものだが、これを突き詰めると新学力観をなしくずしにし、偏差値教育を是認することにつながりかねない。
 脱偏差値路線は、まだその緒についたばかりだから、多少の混乱や戸惑いがあるのは理解できる。だが、もはや後戻りできないことも事実だ。試行錯誤を含めて、中学や高校などで、それぞれができることを着実に進める以外にないだろう。
 集会では、かつてのように、文部省と対決するような場面は、ほとんど影をひそめた。小学校の「生活科」やチーム・ティーチングなどの実践で、きらりと光るリポートも見られた。とは言っても、全体的にみて、力不足の感はまぬかれない。
 組織率が低下している(三五%)とは言え、日教組はなお最大の教師集団(四十万人)である。その分、寄せられる期待が大きいことの自覚が欠かせない。

 
 
 
 
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