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1993/02/14 読売新聞朝刊
[社説]「単位制総合学科」高校への期待
 
 いまの高校は、基本的には進学率が四〇%そこそこのころの構造のままだ。九五%時代の中で、多様な生徒の多様な学習要求にこたえ切れていない。
 普通科の生徒の約三割が、職業系や芸術系の科目の選択を望んでいるという調査結果もある。例えば、獣医の大学に進みたいから、高校で畜産に触れておきたいとか、就職のために情報処理や簿記をかじっておきたいといった希望である。
 先々の進路の構想がまだぼんやりとしていて、高校に入ってから模索しようというタイプもいる。大学を目指す職業高校の生徒も、少なからず存在する。
 文部省の高校教育改革推進会議が、その最終報告で打ち出した「単位制総合学科」の新設提言は、高校全体の構造を柔軟にするとともに、生徒の選択の幅を大胆に広げることを狙ったものと言えよう。
 この方向を基本的に支持したい。普通学科と専門学科(職業学科など)の枠を超えて、さまざまなタイプの生徒を受け入れるこの学科は、高校教育のあり方に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。
 長いあいだの二元的構造に、戦後初めて第三の学科が加わる。普通高校と言えば進学、職業高校と言えば就職、という固定的なとらえ方に変化が期待できる。
 選択科目群の組み合わせ次第で、さらに多元化に向かう可能性もある。そうすることで、序列化や偏差値偏重の進路指導を揺さぶるバネになってほしい。
 「単位制総合学科」高校は、フレキシブルな構造を狙いとしているから、イメージとして、いささかとらえにくい面がある。けれども、個々の生徒から見れば、それぞれが「自前の学校」をデザインできるという点で、従来にない高校と言える。
 普通科目に加えて、多彩な総合選択科目群が用意される。報告は、国際協力、伝統技術、情報、生活文化、生物生産、海洋資源、福祉サービス、環境科学、芸術、体育・健康など十三系列を例示している。
 生徒は、大学や専門学校に進学するにしろ、就職するにしろ、それぞれの進路構想や興味・関心に基づいて科目を選び、独自の時間割を組めるのがミソだ。
 単位制だから、他の高校の中退者も受け入れやすい。社会人講師の採用や、卒業論文・制作など課題研究の重視も、学校を活性化させるだろう。
 選択科目群の例を、ことさら数多く列挙したのには、理由がある。どんな組み合わせで、いくつの科目群を開設するかは、挙げて、都道府県教委や学校法人と、高校にゆだねられているからである。
 むろん、教員配置などの面で、文部省のバックアップが欠かせないが、「個性的な学校で、かつ個性的な学習のできる」高校作りは、中央よりも地方、それに各学校の「やる気」にかかっていると言える。
 入試にもうんと工夫が必要だ。報告は、文化・スポーツ、ボランティア活動を評価した推薦入学の勧めを説いているが、全員を面接だけで入学させるといった大胆な発想があってもいいのではないか。

 
 
 
 
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