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1992/08/30 読売新聞朝刊
[社説]高校入試の多様・多元化を急げ
 
 公立高校の入試は、ごくひと握りの例外を除いて、次のような状況にある。
 同じ時期に、同じ問題で、一斉に実施される。それも一回きりだ。すべての都道府県が五教科を課し、内申書(調査書)は、試験の成績と同等か、それ以上に比重をかけている県がほとんどだ。
 この結果、中学では、偏差値で振り分ける進路指導がはびこり、内申書の存在は、生徒を心理的に圧迫している。
 希望とは違う高校に「入れられて」意欲を失う者も多い。中退者の数が、毎年記録を更新している要因の一つでもある。
 進学率が九五%にもなり、さまざまな生徒が入ってくるのに、こんな画一的で硬い入試のままでいいはずがない、選抜方法を多様にし、尺度も多元化しなければならない。そう迫ったのが、文部省の「高校教育改革推進会議」の中間報告である。
 提言には、耳を傾けるべきものが多い。受験競争の緩和は、ひと筋縄ではいかないが、都道府県教委と学校関係者に、実現への努力を求めたい。
 受験機会の複数化などを盛り込んだ多様化・多元化提言の中で、目を引くのは、内申書の扱いに変更を求めたことだろう。
 内申書を、合否判定の資料に使わない道が開かれたことに懸念を示す向きが一部にある。ペーパーテスト依存型が強まるのではないかとの指摘だ。
 だが、あくまでも例外的に、定員の一部にとどめ、かつ小論文や面接などを組み合わせるのを趣旨としている。逆に、内申書に重きを置いて、学力検査を実施しない方法の一部導入の勧めも、報告にはある。
 さらに、内申書の学習成績の記録以外にも目を向け、スポーツや文化活動、特に、ボランティア経験を入試に反映させるべきだとの姿勢も強く打ち出している。
 戦後の高校入試は、前半が内申書軽視、後半は重視の経緯をたどってきた。今後は軽視に戻るのではなく「多面的な活用」の時代に入ると受け止めるべきだろう。
 要は、従来型のものも含め、多様な窓口と物差しを用意することだ。それを実現することで、生徒が自分に適した選抜方法を選べるようにしなければならない。
 今回の提言は、必然の流れであると認識しておくことも必要だ。
 新学習指導要領は、小、中、高校を通じて個性の尊重や選択の自由の拡大をうたうとともに、「知識の量」を伝達する教育から、自分で考え、判断し、表現できる力を培うものへの転換を目指している。
 高校については、総合学科の新設や全日制での単位制など、柔軟化・特色化の方向が、この六月に出たばかりだ。
 学校のありようをまず変える。それに見合った入試を用意し、出題も暗記中心から抜け出す。今回の提言も、学校の中身と入試の改善とが、表裏一体の関係にある事実を示したものと言える。
 入試改善への努力の必要性は、私立や国立の付属高も例外ではないこと、「変わる学校・変わる入試」には、世間や親の理解が欠かせないことは言うまでもない。

 
 
 
 
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