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1992/06/30 読売新聞朝刊
[社説]単位制導入で個性的な高校を実現させよう
 
 普通科高校と言えば進学、職業高校と言えば就職、と見がちだ。カリキュラムもそうなっている。だが、多くの生徒が就職する普通高校もあれば、大学を目指す生徒のいる職業高校もある。ともに、多様な生徒に十分対応できる仕組みを欠いている。
 全体には、偏差値による序列化がかぶさってもいる。さらに、いずれの学科も、お仕着せの教育が主体となっていて、選択の余地があまりない。中退する者の数が毎年記録を更新しているのも、それやこれやが重なった上でのことだろう。
 文部省の「高校教育の改革推進会議」が打ち出した報告は、進学率が頭打ちとなった状況への処方せんの一つと言える。
 提言の中で目を引くのが、普通学科と職業学科の枠を超えて、幅広い選択科目群を用意する「総合学科」の新設だ。
 専門的な知識・技術とともに、幅広い視野で物事を判断する能力の育成を目指す新学科は、両学科のそれぞれの強み、よさを融合させようとの発想がうかがえる。
 これまで二元的に行われてきた高校教育に、戦後初めて「第三の学科」が導入されることになる。工夫次第で、さらに多元化に向かうばねにもなり得る。
 学校は、関連のある科目を「総合選択科目群」として、まとめて用意する。例えば情報系、流通経営系、国際ビジネス系、看護・福祉系、芸術系、デザイン系、環境科学系、国際教養系、体育・健康系、人文社会系、理数系などなかなか多彩だ。
 生徒は、複数の科目群にまたがって選ぶこともできる。さらに、自由選択科目も開設される。進学するにしろ、就職するにしろ、進路や関心に見合った選択と学習を提供しようとする仕組みと言えるだろう。
 学科独自の必修「産業社会と人間」も興味深い。地域の企業や研究所、福祉施設などでの活動体験を通して、進路の方向を考えさせる趣旨も込められている。
 社会人講師の採用と併せ、やり方次第では、従来の高校にはない新しいタイプの授業になる可能性を秘めている。
 報告はこのほか、全日制にも単位制高校を導入すること、他の高校での科目を受講して単位に認定する学校間連携、専修学校での学習を部分的に認める仕組みなども提言している。いずれも、高校を柔軟にしていく手法として実現させたい。
 今回の報告書は、臨時教育審議会と、それに続く中央教育審議会の「自由化路線」を、より具体的に示したものと言える。それは、生徒の選択の幅を広げる狙いと同時に、個々の高校に対して、質や特色の面での努力を促すものでもある。
 提言をどのように採用するかは、都道府県教委をはじめ、設置者に任される。
 その際、強調したいのは、従来型の普通科、職業学科についても、それぞれの問題点を洗い直して改善することだ。その上で三つの学科の間に競争原理を働かせて相互に刺激し合うことが、高校全体を魅力あるものにするために欠かせないと思う。
 教員配置への配慮など、文部省による支援の必要性は言うまでもない。

 
 
 
 
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