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1992/04/27 読売新聞朝刊
[社説]「40人学級」後の先生をどうする
 
 教育論を始めると、最後はほぼ例外なく「教師論」に行き着く。それほど教師は期待され、同時にさまざまな注文が寄せられる存在となっている。
 その教師と学校に対する要求が、このところ高まるばかりだ。増え続ける登校拒否や高校中退の問題にどう対応するか。日本語教育の必要な外国人の児童・生徒も急増している。環境教育や消費者教育、コンピューター教育などといった要請もある。
 さらには、新学習指導要領のうたう、一人ひとりを生かした「個性の教育」をどう根づかせていくか、という重要課題も目の前に横たわっている。「知識の量」を競う教育から課題発見型の教育に変える必要もある。学校教育はいま、転換期に置かれていると言っていい。
 先ごろ発足した文部省の「教職員定数のあり方に関する調査研究協力者会議」は、こうした教育改革の方向を確かなものにし、教師集団を支援するものでなければならない。
 協力者会議のテーマは、「ポスト四十人学級」の学級編成と教員の配置をどうすべきか、の一点に集約される。
 小、中学校の学級の規模と教員配置については、昭和三十四年以来、これまで五次にわたって改善が加えられてきた(高校は四次)。五十人、六十人という「スシ詰め学級」の解消から入り、昨年度で「四十人学級」計画が達成された。
 この結果、一クラス当たりの人数は、全国平均で、小学校は二十九・一人、中学では三十三・九人にまで改善されている。
 今後これをどうするか。一部には「三十五人学級」を期待する向きもある。だが、単に機械的、かつ全国一律の形でクラスの規模を小さくすればいいというものではないと思う。
 ただ、いまの形式的な基準を改め、市町村教委や学校の裁量で、弾力的にクラス編成ができる方法を検討すべきだろう。
 それ以上に大切にしなければならないのは、児童や生徒の個性に応じた教育をどう実現していくか、という視点だ。
 そのためには、さまざまな指導方法が必要になってくる。例えば、一つのクラスを二人の先生で担当するのも一つの方法だし、習熟度に合わせた指導も工夫されていい。音楽や美術など専科の教師も増やしたい。現場にもその要請が強い。
 あるいは、分数の学習でつまずき、その後の「落ちこぼれ」につながりがちな小学三年生に、手厚く教師を配置するような発想があってもいいのではないか。
 中学では、選択科目の拡大に見合う教師の手当てが必要だ。高校でも、指導の困難な学校とそうでないところが、同じ教員配置率でいいのかという課題がある。
 いまは、小、中、高校を通じて、児童・生徒が減りつつある。これを、格好の機会ととらえることも可能だ。
 教師が、児童・生徒の長所や持ち味を引き出し、励まし、伸ばしていける――そうした、単純だが最も基本的な心配りのできる改善計画を望みたい。

 
 
 
 
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