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1992/03/09 読売新聞朝刊
[社説]ストを放棄した日教組の課題
 
 「硬い、暗い、古い」。日教組が四年前実施したアンケートで、上位を占めた三つの「日教組イメージ」である。世間の目は、その後もさほど変わっていない。
 その日教組が、先ごろ開いた臨時大会で「スト」の看板を外した。組合規約の大会決定事項に定められていた「争議行為」の項目を削除することで、いまの任意団体から社団法人への転換を図るためだ。
 振り返ってみれば、結成以来四十五年の日教組は、「ストによる対決」路線の歴史であった。今回の規約改正で、日教組は、大きな節目を迎えたといっていい。
 規約改正に踏み切ったのは、大きく言って、三つの事情による。
 第一は、財政上の問題だ。法人格を持てば、組合の名義で財産の維持・管理が可能となるほか、税制上の優遇措置も受けられる。幹部個人の名義による預貯金に課税されている現状は、かなり改善される。
 だが、法人となるには「スト」条項を削除しなければならない。「職員団体の法人格付与に関する法律」は、法律に反する組合規約があると、法人格を与えないとしているからだ。争議行為は、国家公務員法、地方公務員法で禁止されている。
 昨今は、ストを実施しようにも現実にはできないという状況にも、日教組は置かれている。これが第二の事情である。
 教師のストライキを、社会の側が許容する空気はおよそない。スト処分者に対する救援資金は、日教組の台所を圧迫し、これ以上の実施は不可能の状況でもある。
 日教組は長いあいだ、国の教育政策と対決しスト戦術を繰り返してきた。勤務評定反対闘争、主任制反対闘争などだ。その都度、国民の信頼を失ってきた。
 教師仲間からもそっぽを向かれた。一時は八割を超していた組織率は三五・七%にまで落ち込み、新規採用教員の加入率も二割を切った(平成二年十月現在)。
 イデオロギーに固執し、政党の代理戦争にかまけた結果である。こうしたじり貧状態から抜け出すためにも、柔軟路線に転換することを迫られた訳だ。
 組織分裂して「連合」に加盟した一昨年から、「参加・提言・改革」をスローガンに打ち出した。さる一月の教育研究全国集会では、大場委員長が「文部省・県教委など行政の対応には全面的に協力していきたい」とまで述べている。
 この「対話と協調」路線を本物にする意味でも、「スト」項目の削除は避けて通れなかったのだろう。
 当然の帰結であり、遅すぎたとも言えるが、今回の規約改正は評価していい。
 ただ、例によってなし崩しの印象は免れない。「スト路線」を総括し、その反省の上に立った転換ではないからである。
 あいまいなままでなく、次の定期大会できちんと論議すべきだ。その際、国旗・国歌の扱いなど内部でも揺れている教育課題について整理することも必要だ。
 そのうえで、だれの目にも見える現実的な対応を求めたい。でなければ、硬くて暗いイメージは払しょくできない。

 
 
 
 
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