1991/03/16 読売新聞朝刊
[社説]通信簿は子供を励ましてこそ・・・指導要録改善へ
先生や親は、ことあるごとに「頑張れ」とか「もっと努力を」と言う。けれども、いまの通信簿では、例えば、クラスのみんなが同じように頑張れば、結果は、だれも頑張らないのと同じことになってしまう。現在の相対評価の仕組みは、そうした問題も抱えている。
小中学校の学習評価のあり方を、大きく転換させようとの方向が、文部省の「指導要録改善調査研究協力者会議」から打ち出された。
これまで主役だった相対評価をわき役に回し、教科ごとの目標に照らしてどの程度達成したかを見る絶対評価を基本に据える。「順位より頑張りの成果」に重きを置く評価への切り替えである。
そして、一人ひとりの可能性を積極的に見いだし、伸ばすよう努めること、優れた点や長所を生かすようにすること、教師は子どもの学習活動を支援する立場に立つこと、の三点を強調している。
大いに賛成だ。戦後一貫して続けられてきた相対評価は、子どもたちの競争心をあおる方向に働き、いまでは「人の品定め」の機能ばかりが肥大化しているのが現実だからである。
来年から本格実施に入る新学習指導要領は、子どもの個性を大切にすること、学ぶ意欲や、自ら考え、判断する力をつけることを目指している。来るべき生涯学習社会は、だれもが学び心と好奇心を持ち続けなければ成り立たない。
そうした点も考えれば、「やる気」を起こさせる評価への転換は、必然の流れだと言えるだろう。
「5・4・3・2・1」に代表される相対評価は、集団の中で、どんな位置にあるかを評価する方法だ。
客観性は保てるのだが、それだけに、いくら頑張っても認められない子にしてみれば、身もふたもないものになってしまう。やる気をなくす子も出るだろう。
それに、評価と言えばテストをし、その結果を数値化して割り振る、という傾向が長く続き過ぎた。そのせいで、できたか、できなかったか、正しいか否かの結果だけに目を奪われる風潮を生んだと思う。
これからは、結果よりも、あるいは結果だけでなく、学習のプロセスを見る評価が中心になる。それは、課題に取り組む姿勢や態度を見て取り、適切なアドバイスとなるものでなければならない。
教師に求められるのは、指導要録や通信簿にどう書くかだけではない。日ごろから子どもたちをどう把握しているかがポイントになる。
つまり、教師自らの指導のあり方も問われるのだ。この事実を先生が再確認するようお願いしたい。
今回打ち出された方向は、これまで主流だった「減点主義」から抜け出すことを目指すものだ。
一気にとは行かないかも知れないが、何とか定着させたい。そのためには、教師の発想の切り替えとともに、父母の考え方も変わらなければなるまい。
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