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1991/07/09 読売新聞朝刊
[社説]消化不良の日教組“現実”路線
 
 文部省が先月まとめた調査によると、日教組の組織率は三五・七%、新採用教職員の加入率は一九・六%だった(昨年十月現在)。いずれも過去最低である。
 そうした低迷状態の中、先週、山形市で開かれた今年の日教組定期大会の課題は、次の一点に集約される。
 昨年の大会で「何でも反対」から「参加・提言・改革」へと塗り替えた看板(基本姿勢)に見合う品ぞろえ(現実的な運動方針)ができるかどうか、である。
 結論から言えば、現実路線に一歩足を踏み出したものの、なお、戸惑いと試行錯誤の中にあると言えそうだ。
 なるほど、運動方針からは「闘い」の文字が消えた。決まり文句だった「反臨教審」や「学習指導要領撤回」の言葉もなくなっている。「第二道徳」と決めつけていた生活科についても「あるべき方向を研究する」との姿勢に変わった。
 廃止を叫んでいた初任者研修、完全実施としか主張しなかった学校五日制などでも柔軟な対応ぶりがうかがえる。
 昨年までの日教組には、独善的・硬直的な物言いが多すぎた。イデオロギー色も目立ち、政府・自民党の政策にはことごとく対立する姿勢を貫いてきた。
 その意味で、現実路線への転換は、ごく当然のことと言える。ようやく大人になりつつある、との見方も可能だろう。
 大会論議では、この路線に沿う形で、いくつかの柔軟な取り組みぶりが明らかにされた。例えば、静岡県教組は、学校五日制について、県教委や文部省指定の実験校と協議、交流を重ねている。
 神奈川からも、行政やPTAなどとともに「触れ合い教育県民運動」に積極的にかかわっている事例が報告された。
 しかし、全体的に見れば、大会での論議は、極めて低調だったというほかない。それは、現在の教育課題について、組合員レベルでの認識が、十分こなれ切っていないからだと思われる。
 来年度から本格実施される学習指導要領は、「選択の自由の拡大」を重要な柱の一つにしている。そのために学校の裁量の幅も広げられようとしている。
 この問題に関して、何ひとつ掘り下げた討論はなかった。能力主義、差別・選別主義といった一面的、短絡的なとらえ方からまだ抜け切れていないようだ。
 「子ども(児童)の権利条約」にしても早期批准をうたうのはいい。
 だが「意見表明権」など市民的自由について、成熟度に応じてとか、他の者の権利の尊重や公の秩序など、条約文にある制限や歯止めとの兼ね合いをどうするかといった具体的な言及はまったくなかった。
 校則問題や体罰などで表面化している「加害者としての教師」の反省に踏み込んでいないのも、残念というほかない。
 日教組は必要なのか、という声が世間に広がりつつある。さらに自己批判を進めるとともに、現場を知る者ならではの「提案型組合」に、名実ともに脱皮して行かなければ、大方の父母の支持は得られまい。

 
 
 
 
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