1991/01/30 読売新聞朝刊
検証 単位制高校 柔軟な教育が全国で好評 中退者の救済にも道(解説)
学年の枠を取り払った新しいタイプの高校「単位制高校」が注目されている。東京では初めて四月に開校する新宿山吹高は、昼間課程が異常人気。他県では卒業生が続々出始めた。その現状と課題−−。(解説部 鰭崎 浩)
単位制高校は、六十年の臨教審答申で提唱され、今春に予定される中教審答申でもさらに推進の方向が打ち出される見込みだ。
これまでの高校が、選択科目の導入で弾力化をめざしながら、実際には学年制にしばられ、単位を少しでも落とすと進級ができないといった息苦しさがあったのに対し、学年にこだわらず、単位取得の積み重ね(八十単位以上)で卒業を認めるという柔軟なタイプの高校である。
従って、高校中退者、働きながら学びたい者、他校からの転入・編入者、社会人を受け入れることが可能で、過去に取得した単位や大検の合格科目を加算することもできる。
六十三年以降、全国ですでに十三校が開校(生徒数二千七百八十人)。今年四月から東京、北海道など五校が加わり、大阪でも準備が進んでいる。他県では、これまでの定時制から移行する例もあったが、今春の東京、北海道は「創設」の形で開校をめざしている。
◆人気よぶ新宿山吹高
そのせいか、新宿山吹高は、都立高校離れが進むなかで、さきの志望予定調査で大人気。普通科は授業開始時間によって、1部(午前八時半)、2部(同十時半)、3部(午後一時十分)、4部(午後五時五十分)、情報科は同じく2部と4部に分け、六十人ずつ募集する予定だが、普通科1部は九・四倍、2部は三・四倍、情報科2部も三・三倍という志願希望者があった。
定員の半分は、高校の二年生以上に相当する者を対象にしており、中退者からの問い合わせも多く、二月一日からの正式募集が注目されている。
これまでの開設校で、最もさまざまなタイプの生徒を受け入れているのは、埼玉の大宮中央高(普通科、昼間のみ)。十五歳から六十五歳まで、四百二十七人(男子が六割)が在籍しているが、類型に分けると〈1〉中卒者(十九歳未満)〈2〉特別募集生(十九歳以上)〈3〉他校からの転入生〈4〉編入生(中退者など)〈5〉転籍者(同校に併設の通信制から移動)。
全国的な高校中退者の増加(年に十一万人)の中でこれまではもう一度学びたいと思っても受け皿が全くなかったのだが、同校をはじめ単位制高校は救済の門を開いているといえる。
同校の場合、転入生は二百人、編入生は百十五人。単位をとり損なって前の高校に残りにくくなり、安易に転入する例もあるようだが、健康や障害の問題で移ってきた者も少なくない。
他の生徒や地域の迷惑になることをしないというルール以外、校則はなし。服装、頭髪も自由。ただし、十分遅刻すると、その授業は出られないとか出席日数など学習面はきびしい。
◆昼夜自由に選択も
単位制の特色には、もう一つ生徒の科目選択の弾力性がある。金沢中央高は、昼間、夜間に分かれるが、生徒はどちらに在籍していても、自分の単位のとり方や仕事の都合によって、昼間、夜間どちらの授業で単位を積み重ねてもよい。
同校では、県の金沢高等技術学校(職業訓練校)と技能提携しており、一年間ここに通って板金、塗装、電気などの技術を学べば、中央高の単位になる。
同校の中島幹夫校長は「やる気のある生徒、たとえば年配の会社社長などに引っぱられて、三年間で八十単位とってしまう生徒が五十人も出て、三月に卒業する」と話す。
新宿山吹高でも、在籍生徒は、I―4部の授業を必要と都合によって自由に選べる。また併設の社会人向けの生涯学習講座も一年間学べば単位となる。同校の清水希益校長は「すべて新しい試み。クラス編成や担任制はあるが、ホームルーム活動はない。代わりに相談部にカウンセラーを置く。生徒の学習意欲に期待したい」と語る。
◆問われる生徒の意欲
「単位制」がすべてバラ色と評価されているわけではない。二五%が自主退学した高校もあり、先週の日教組教研集会では「定時制の切り捨てだ。ホームルーム、クラブ活動が不十分では高校教育の解体につながる」といった批判の声が出ていた。
しかし、大宮中央高の真藤伸夫校長は「全日制も定時制も、高校教育のシステムとして完ぺきではない部分があるのではないか。人間関係が希薄になるというけれど、いまの全日制の高校のホームルームで、生徒たちはなかなか本音で話そうとはしない。むしろ、単位制で年齢や経験の違う生徒同士の出会いこそ貴重かもしれない」と話している。
単位制はスタートしたばかり。今後も広がっていくだろうが、生徒の選択の幅にこたえるカリキュラム、教職員の心意気が大切だろう。また生徒には全日制以上にやる気、自己教育力が求められる。鉄筋七階建て、冷暖房つき、総工費六十二億円の新宿山吹高は人気だが、地道な努力があってはじめて生きてくる。
〈既開校〉
岩手県立杜陵高校 (盛岡市)
宮城県立貞山高校 (多賀城市)
埼玉県立大宮中央高校 (大宮市)
石川県立金沢中央高校 (金沢市)
長野県立松本筑摩高校 (松本市)
愛知県立刈谷東高校 (刈谷市)
鳥取県立鳥取西高校 (鳥取市)
〃 米子東高校 (米子市)
宮崎県立宮崎東高校 (宮崎市)
沖縄県立宮古高校 (平良市)
〃 泊高校 (那覇市)
〃 北部農林高校 (名護市)
〃 八重山商工高校(石垣市)
〈今年4月開校〉
北海道立有朋高校 (札幌市)
(普通科、事務情報科)
茨城県立水戸南高校 (水戸市)
(普通科)
山梨県立中央高校 (甲府市)
(普通科、情報経理科)
東京都立新宿山吹高校 (新宿区)
(普通科、情報科)
高知県立高知北高校 (高知市)
(普通科、看護科)
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。
「読売新聞社の著作物について」
|