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1988/02/05 読売新聞朝刊
[社説]なお遠い日教組再生への道
 
 日教組はなに一つその体質を変えていない。それが、二年七か月ぶりに開かれた定期大会の印象だった。
 今度の大会で、日教組に与えられた課題は大きく分けて二つある。
 一つは、人事と労働戦線統一問題に決着をつけ、四百日にもわたった内紛と混迷に終止符を打つこと、そしてもう一つは、いま進められている教育改革への取り組みを明らかにすることだ。
 前者は労働運動としての、後者は教育運動のにない手としての課題である。残念ながら、そのいずれについても不満の残る大会だったというほかない。
 新執行部人事とからみあった路線問題は、会場外での裏交渉が中心となり、会場内はただ単に日程をこなすだけというしらけたものになった。主流派(社会党系)右派と左派を、とりあえず接着剤でくっつけた感も強い。反主流(共産党系)を含めた内紛の火ダネはなお残っていると言えるだろう。
 それ以上に失望させられたのは、国民が注目している教育論議である。
 教育集中討議は、ほとんどが、初任者研修制度についやされた。大切なテーマであることは否定しないが、教育改革全体の流れから見れば、本質論とは言えないものだ。子どもたちを視野に置き、教師にも反省すべき点があるなどといった意見も出た前回、前々回の大会とは大きな違いである。
 相変わらず、組織の外の者には、理解しにくい、あるいは疑問に思う発言も目立った。
 初任者研修を「思想改造・組織破壊攻撃」「国定教師作り」だと主張したり、臨教審「路線」は、「国家主義であり、軍事大国化をになう人づくりを進めようとするものだ」と決めつけたりするたぐいである。
 初任者研修制度といい、臨教審の答申といい、多くの問題点があることは事実だ。しかし、こうも一方的な断定の仕方をするのは、どうであろう。会場で盛んに飛び交った「国民合意の教育改革」は、かえって遠ざかっていくように思える。よりよい教育を模索していくための建設的な姿勢とはいえまい。
 ところで、今度の大会は「再生大会」だと言われている。委員長を始めとする三役全員が入れ替わったのは、日教組の歴史の中で初めてでもある。
 しかし、新執行部の成立は、そのまま新体制とはいえない。というのも、基本的構造を何一つ変えないまま選出されたメンバーだからである。
 例えば、四十人の中央執行委員のうち、三十四人は、長いあいだ学校現場から遠ざかり、復帰への道も閉ざされたプロ専従者だ。しかも三十一人は留任である。高齢者も多い。
 この「現場離れ体制」で、教師の悩みや子どもたちの心を本当に理解し、その上でなお、世間の多くに説得力をもって伝わる教育運動を組むことができるのかどうか。
 分裂は免れたものの、日教組は、その存在理由をなお問われている。最大の教師集団ではあるが、この数年、組織率は下がるばかりでもある。
 痛みを伴うだろうが、「福田新執行部」は、次に向けて、現場教師中心の執行部体制を築くことを求められていると言える。その時初めて「再生日教組」と言われるだろう。

 
 
 
 
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