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1987/08/05 読売新聞朝刊
[社説]日教組は現場中心の執行部を
 
 異常事態が長いあいだ続くと、やがて、それが「正常」の状態となり、そしてだれも何とも思わなくなってしまう。
 いま、日教組の置かれている状況はそれに近い。主流派(社会党系)の右派と左派、それに反主流派(共産党系)が加わった内部対立は、始まってからもう一年を超える。
 この六月に予定されていた定期大会がいつ開けるかのメドもたっていない。そして、さる一日からは、ついに無予算状態にまで突入した。
 予算のない状態は、定期大会を開けなかった昨年九月からことし三月にかけても経験しているが、この間は「緊急支出」で乗り切っている。今回は、まだその措置すらなく、書記局員の給与支給も宙に浮きかかっている。まさに機能マヒ状態である。
 日教組の混迷と内紛は、委員長人事をめぐる派閥争いと労働戦線統一を中心とする路線対立がもたらしたものだった。前半は人事問題が、ことしに入ってからは、全民労連加入の是非論が前面に出てきている。
 先月の総評大会では、内部対立をもろにさらけ出し、右派と左派がつかみ合い寸前の醜態すら見せた。三者の争いは「正しいのは自分たちだけ。反対する者は敵だ」というところまできている。一般市民の目から見れば、コップの中のあらしにすぎず、それぞれの主張もなんだかわからない、というのが正直なところだろう。
 この局面がどう打開されるか、最終的には組織内部の努力に待つしかない。が、事態がここまでこじれきってしまった以上、現在の三役全員の辞任とフレッシュな執行部づくりのほか方法がないように思える。
 いま、日教組を見ていて、改めて気づかされるのは、中央幹部の高齢化と「現場離れ」ぶりだ。そのはずで、中央執行委員三十五人(定員は四十人)のうち、現場教師としての籍のある者はわずか二人しかいない。
 そして、二十年以上教壇を離れている者が八人、十年以上二十年未満が三人という構成でもある。これで、現場の教師の悩みや子どもたちの痛みを本当に理解し、バックアップする体制が組めるのだろうか。
 百歩譲って、現場を離れている方が、実態を巨視的、客観的につかみやすいという長所が発揮されているかどうか。これとて疑問符をつけざるを得ないと言える。
 皮肉なことに、日教組の力が弱まり、中央の機能がマヒした時期は、ちょうど臨時教育審議会の任期期間に当たる。そこでの改革論議を大ざっぱにくくると、旧世代の保守と新世代の保守との価値観の争いだったと見ることもできる。
 この間、日教組は「旧世代の革新」の立場にとどまったままであり、基本的部分で、世間の多くの人びとに説得力をもって伝わる批判や代案を出し得なかった。それどころか、通学区域の廃止・緩和などを中心とする「自由化」論争では、時に、宿敵・文部省と同じ「応援団席」に座るというブラックユーモアまで演じて見せた。
 現場教師中心の新執行部体制を築いて、政治抗争に終止符を打つ。そして、教育専門家集団としての原点に立ち返る。最も子どもの身近にいる存在として国民の信頼を回復するには、そんな大胆な手術が望まれる。

 
 
 
 
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