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1987/07/10 読売新聞朝刊
[社説]個性発掘へ、京大の入試改革
 
 国公立大学の来年度二次試験実施要項が、今月末までに出そろう。
 各大学で詰めの作業が行われている段階だが、その中で、京都大文学部が打ち出した「私大文系型」入試が注目される。
 定員の一部を対象に、文系教科の成績だけで合否を判定する方式だが、有力大学でのこの試みは、選抜の物差しの多様化という観点から大いに評価できる。
 二次の日程をABに分ける受験機会の複数化を導入した今春の入試は、結果的には大量の足切りや追加合格といった形の混乱を招いたが、来春もまた、文系学部のB日程集中などの問題を残したまま実施される。
 この複数化について、京大文学部は「大学の画一化、序列化を招く」と当初から反対してきたが、来春の入試では「大学・学部の学風や伝統に志を寄せる志願者の選抜を実施したい」と、とりあえず定員二百二十人のうち二十人を「私大文系型」とも言える方式で選ぶことにした。
 文学部にふさわしい、文系の能力に優れた受験生でも、理数科目に弱ければ門前払いをせざるを得なかった従来の画一方式を打ち破り「特色ある入試で個性的な学生を採りたい」という姿勢を明確にしたものである。
 教授会での検討段階では「文学部といえども、心理学、社会学、数理哲学などには数学的思考、発想が必要」「高校で理数の勉強を無視する受験生が出てくる」といった意見もかなり出たが、最終的には「現行制度の好ましくない点を単に批判するばかりでなく、各大学・学部が知恵をしぼって独自の入試を実施することこそ、画一化、硬直化したいまの受験体制を改善する道」と判断された。
 もっとも六十四年の入試をどうするかは未定であり、また、来春の対象人数が「わずか二十人」というところに、同学部のテストケースとしての不安がうかがえる。とは言え、ややもすると慣行に流されがちな国公立大の体質から一歩抜け出そうとするその姿勢は評価されてよいだろう。
 主要五教科にしばられない私大からも優秀な学生や研究者が輩出している。文学部では「とにかく人材を集めることを第一に考えたい」と期待するのである。
 これは複数化受験がもたらした一つの改革だ。そうして、京大に限らず、このような入試多様化への試みは、他の大学でも少しずつ実施されようとしている。
 例えば、名古屋大経済学部は共通一次試験を抜きにした推薦制度を一部で採用、スポーツ、ボランティア、海外生活の体験と小論文、面接の結果を総合して選抜することを決めている。また、一科目でも高得点を取れば入学させるというユニークな入試を実施してきた信州大経済学部も、新たに高校長の推薦書、調査書、自己申告書による推薦入学制度を採用するという。
 学力検査が主流のわが国では奇抜なやり方に見えるかも知れないが、ハーバード大学などではいたって普通に行われてきた選抜方法なのだ。京大文学部の試みがどんな実を結ぶかは今後に待たねばならないが、大学は「どんな学生が望ましいか」を、もっと自身に問うてみる必要があるのではないか。

 
 
 
 
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