2000/08/06 毎日新聞朝刊
[社説]不登校13万人 「新タイプの学校」検討急げ
1999年度に年間30日以上欠席した「不登校」の小・中学生は、13万208人(前年度12万7692人)に達したことが、文部省の調査でわかった。
対前年度増加率が過去最小とはいうものの、児童生徒数が27万人減っている中での数字だ。特に、中学校では41人に1人が不登校というところまできている。重く受け止めなければならないだろう。
これだけの数ともなると、不登校の理由や形態は一様ではない。文部省は6通りに分類しているが、大別すると、学校に行く意思はあるのに行けないケースと、学校に行く意義を認めず好きな道を選ぶケースの二つの態様があるように思われる。
前者に対しては、親や学校がきちんと対応しなければならない。
学校に行けなくなった理由もまたさまざまだろうが、例えば、それが学校でのいじめに起因しているのであれば、すぐにもいじめの解消に取り組む必要がある。いじめは社会の有りようにもかかわる根の深い問題だ。特効薬はないが、現にいじめにあって苦しんでいる子供たちには、緊急支援が欠かせない。
授業や生活指導時などでの、教師の不用意な言動が不登校の引き金になっている例が意外に多いことにも注意しなければならない。悪意のあるケース(時にみられる)は論外だが、子供は何気ない一言によって傷つくこともある。日ごろ信頼関係を築いているかがカギになる。
基本的には、学校を魅力ある存在にすることだ。授業や部活動をどう充実するのか、保健室やスクールカウンセラーは何をするのか、知恵を出す余地は、まだある。
意図的な不登校には、別の対応が求められる。近年はこちらのタイプが増えているようだが、時代とともに学校の存在意義が変わってきていることの表れだろう。
かつて学校は、追いつき追い越せの近代化に資する人材を育成する点で唯一の存在だった。しかし、近代化を一応達成し、価値観が多様化した現代は、情報があふれている。学校は、必ずしも絶対的存在ではなくなってきている。
これから問題になるのは多様性に対応する教育だ。それには一定の水準は確保しつつも別のルートも用意し、いつでもどこでも学びたい時に学べる、やり直しのきく柔軟なシステムへ切り替えることが必要だ。
不登校にもこの視点からの取り組みが求められる。文部省は、不登校により義務教育を修了していなくても大学入学資格検定の受検を認めるなど、一部切り替えに取り組みつつあるが、学校制度そのものにかかわる改革には踏み込んでいない。
しかし、米国では一般的になってきた「チャーター・スクール」(教師や親などが理想とする教育をしようと学校を作り、公的機関が財政を保障する)や、「ホームスクール」(在宅のまま親などが教師役にあたる)に対する関心が、日本でも高まってきた。日本版を目指す動きが各地に出てきている。教育改革国民会議は、地域が運営に参画する新しいタイプの公立学校、「コミュニティー・スクール」を提唱した。
長短それぞれあるが、日本でもこうした新しいタイプの学校の可能性について、本格的に検討する時期に来ているのではないか。
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