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2000/08/09 毎日新聞朝刊
[社説]教育改革国民会議 大胆だが未消化に過ぎる
 
 教育改革国民会議の三つの分科会がこのほど示した審議報告は、玉石混交の感は免れないが、奉仕活動の義務化やコミュニティー・スクールの実現など、なかなか思い切った大胆なアイデアが含まれている。
 ただ、経過報告の段階とはいえ、未消化に過ぎる。委員の間でさえ、合意に達していないものも少なくない。これから、まずは国民会議内部で十分に詰め、練り上げて、そして国民的議論にかけてほしい。
 報告は多岐にわたっているが、ここでは教育基本法の問題と、その他の提案に分けて考えたい。
 関心が高い教育基本法の見直しについて、分科会報告は「基本法改正が必要との意見が大勢を占めたと考えている」と集約した。
 しかしなぜ改正が必要か、どこをどう改正するかは、必ずしも明確ではない。共通理解に達したとは思えない。「基本法1条の規定は、個人や普遍的人類などが強調されすぎ、国家や郷土、伝統、文化、家庭、自然の尊重などが抜け落ちている」との意見がある一方、「1条の教育の理念は普遍的なものであり、否定すべきものではない。それよりも教育条件の整備が不十分であるために困難な問題が生じている」との認識を示す委員もいるのである。
 教育基本法を議論していく必要はある。だが「改正が教育をめぐる諸問題の解決に直ちに結び付くものではない」ことは報告自身が認めているとおりだ。理念を法律で規定すればそのとおりになるわけではない。課題が山積している中で、合意が難しいこの種のテーマにエネルギーを集中するのは、賢明とは思えない。「はじめに改正ありきではない」というなら、現場に足を運び、その実態を踏まえた議論が求められる。
 基本法問題以外で目を引くのが、小・中学校は2週間、高校は1カ月間、奉仕活動など社会に貢献する体験を毎年、すべての子供たちに義務づけようという「共同生活による奉仕活動などの義務化」である。
 基本的には理解できる。兵庫県では、中学2年生に1週間体験学習させる「トライやる・ウィーク」を実施、成果を上げている。米国ではボランティアを必修単位として課す高校も多い。実体験が乏しく、コミュニケーションが苦手な今の子供たちには意義のある時間になるだろう。学力低下を防ぐために授業時間を増やしてもっと勉強させろ、という主張よりは、的を射ているように思う。
 だが将来的にはすべての18歳に1年間の奉仕活動を、という提案は、国民に新たな義務を課すことになるだけに、問題が多すぎる。教育課程の中で時間を割くのとはレベルが違う。受け入れ態勢からみても難しいのではないか。委員の間にも疑問の声があったようだが、再考した方がいい。
 このほか報告は、地域独自のニーズに基づいて市町村が設置し、地域が運営に参画するコミュニティー・スクールや、高校の学習達成度試験の導入、保護者の選択による5歳児入学、大学入学の年齢制限の撤廃などを提言した。
 どれ一つとっても影響が大きいテーマであり、面白いものもあるが、具体像が見えてこない。思いつき的な発想から脱しきれていない面も見受けられる。腰を据えた、丁寧な議論を積み重ねてほしい。


 
 
 
 
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