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1999/01/24 毎日新聞朝刊
[社説]教研集会 学級崩壊の克服に全力を
 
 授業中、だれかれとなく子供が騒ぎ、歩き回り、反抗し、教室が無秩序な状態と化す「学級崩壊」が、想像を超す規模とスピードで全国に広がっている。岡山県、滋賀県で開かれている日本教職員組合(日教組)、全日本教職員組合(全教)の教育研究全国集会の報告で、この実情が浮かび上がった。
 「学級崩壊」は、子供の新しい荒れとして、数年前から教育現場で問題になっていた。ただ、いじめや不登校が初めそうであったように、特異な子供、教師のところに発生する特異な現象と受け取られがちだった。
 しかし、小学校低学年から起きていること、経験豊かな教師のクラスでも発生していることなどが次第に明らかになり、急速に関心が高まってきている。教研集会での論議は、事態が極めて深刻なところまできていることを示しているといえる。
 日教組の集会では、自ら学級崩壊を経験した教諭らが、生々しい経緯と取り組みをリポートした。教組支部が兵庫県西宮市の教師を対象に昨年3月実施した調査だ。
 それによると「学級崩壊」「授業崩壊」を経験したことのある教師は、小学校で14%、中学校24%にのぼった。今は経験していなくても、「いつ起きてもおかしくない」「起きるかもしれない不安感がある」を含めると、ほぼ9割の教師が危機感を抱いている。
 子供の荒れの原因については、家庭のしつけ、親子関係、それに現代社会のゆがみを挙げる教師が多かった。確かにその通りだろう。
 少年による衝撃的な事件が相次いだのを受け、中央教育審議会は昨年6月「心の教育」について答申した。その中で、「専ら個人の利害得失を優先したり、モノ・カネなどの物質的な価値や快楽を優先するなどの大人社会全体のモラルの低下を問い直す必要がある」と提言している。
 学級崩壊もまた、少年事件などとは別の形で発した子供たちのシグナルと受け止めるべきだろう。特異な現象ではなく、どこにでも起こりうる社会問題として直視し、学校だけでなく、父母や地域社会が連携して立ち向かう必要がある。答申がいうように、大人の意識改革がまず求められよう。
 もちろん、現実に危機に直面している学校現場での対応は急務だ。教研集会では、さまざまな取り組みが報告されたが、共通して強調されたのは、担任が一人で抱え込まないこと。クラスや学年の枠を超え、教師が協力してかかわることの重要性だ。「学級王国」意識の払しょくが出発点になる。
 さらに学校生活の基本である授業の改革が欠かせない。授業が分からないこと、面白くないことが荒れに結び付く例は多い。
 一つのクラスで複数の教師が授業するチームティーチング方式や、教科や単位時間を弾力的に組み合わせることなどで、個々の子供の状況にかかわりなしに進める画一授業を改めようとする報告は、参考になる。「総合的な学習」も大きな力になるだろう。
 こうした試みは、新学習指導要領も求めているところだ。学校、教師は、この新しい流れを武器にして、一層創意工夫を進めてほしい。教育条件の改善も欠かせない。国や自治体は、少人数学級の実現など現場の支援に知恵を絞ってほしい。


 
 
 
 
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