1996/08/08 毎日新聞朝刊
[特集]データは語る・日本の学校はいま――96年度・学校基本調査(その1)
◇21世紀の学校は−−進む少子化と高学歴志向
子供が減り続ける一方で、なお高まる大学進学率。7日文部省が発表した1996年度学校基本調査は、少子化と「高学歴志向」のはざまにある教育現場の実相を映し出した。幼児期から成人期まで約20年間連続して学校に属すのがありふれたパターンになりつつある。その傍ら「学校嫌い」の不登校は増え続け、とどまるところを知らない。21世紀の学校はどう変わるべきなのか。その「かたち」を模索するうえで、これらのデータは示唆に富む。
【教育取材班】
●沈黙の教室●
学校が段々「静か」になっている。「すし詰め教室」はもう死語になった。
幼稚園から高校まですべての段階で児童生徒が減少し、小学校・中学校は史上最低記録を更新した。年間出生児はなお減り続け、「底打ち」の見通しも立っていない。前年度からの減少の概数は小学生が26万5000人▽中学生が4万3000人▽高校生は17万7000人に上る。
幼稚園の園児数も1万人減少したが、一方で親のニーズに沿って就園率が高まっている3歳児は3年連続増加し、34万7000人と過去最高となった。
別表のグラフにある通り、戦後間もないころ生まれた第1次ベビーブーマー、つまり「団塊の世代」とその子供たちである第2次ベビーブーマー「団塊ジュニア」が、ラクダのこぶのように二つピークを作った。これが、学校施設の拡充や継ぎ足し増設につながったが、日当たりの悪い教室が増えたり、グラウンドが校舎新築で狭くなるなどの弊害も生んだ。
このため、文部省は「児童・生徒数の減少は、本来のゆとりあるスペースを復活させる契機」とし着眼。「空き教室」を有効利用し、全国の小、中学校にカウンセリング室を整備する緊急対策を今年度から始めた。いじめが深刻さを増すなか、臨床心理士を派遣する「スクールカウンセラー事業」を充実させるためで、3年で小、中学校750校に教育相談と併用の部屋の開設を目指す。
間取りや内装の改造などを補助し、子供たちが気軽に相談できるような雰囲気づくりを工夫。1校当たりの経費は400万円以上(国が3分の1を補助、市町村が3分の2を負担)という。
現在、全国の小、中学校の全教室数の約1割に当たる約5万教室が「余剰教室」で、うち8割は多目的教室やコンピューター室などに使用。残り1万教室のうち、地域の図書館や老人福祉施設など学校教育の目的外に使用しているケースを除く約8000教室を文部省は「空き教室」と呼んでいる。
もちろん、物理的な対応だけではない。学校週5日制の完全実施に向け、文部省施設助成課の玉井日出夫課長は「新たなコミュニティーを取り戻す動きが今後10年間に進むだろうが、学校がその拠点として連絡、調整の機能を果たすことが期待されている。学校の性格も変わらなければならない」と指摘する。
開かれた学校づくりは、少子化が契機に前進する可能性は小さくない。
(この記事にはグラフ「幼稚園、小、中、高校、大学生数の推移」があります)
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