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1992/08/30 毎日新聞朝刊
[社説]生徒の希望を生かす入試に――高等教育改革推進会議の「中間のまとめ」
 
 いまの子どもたちは、どの高校に入ったかで将来の進路がほぼ方向づけられる、と言ってもいいだろう。
 偏差値の高い高校に入れば大学へ、そうではない高校だと、大学、専修学校、就職と多様な進路を取る。職業高校だと、大半が就職していく。
 その進路は、おおむね本人の希望よりも、偏差値と内申書で振り分けられるのが現実だ。このため、行きたくない高校へ行かされる生徒が少なくない。不本意な入学は大量の高校中退者(年間十二万人)を出している。
 偏差値偏重の高校入試は受験競争を過熱させ、内申書とともに生徒の「心の抑圧」になっている。
 その「抑圧」から生徒を解放し、豊かな人間形成を保障するために、中央教育審議会は昨年の答申で、偏差値偏重を排し、生徒の個性を生かす入試へ改善を求めた。
 それを受けて検討を進めていた文部省の高校教育改革推進会議は「選抜方法の多様化と選抜尺度の多元化」を基本にした改善策を「中間まとめ」として公表した。
 その内容は一九八四年の文部省通知や中教審の選抜多様化路線を、さらに進めるとともに、現在進行中の「特色ある高校づくり」と、思考力などを重視する新学習指導要領の「新しい学力観」に留意したものになっている。
 その特徴は、各学校・学科、あるいは入学定員を区分して、異なる方式で選抜してもよい、というものだ。
 これまでは五教科の同一問題を一律に課し、内申書も学力検査と同等かそれ以上の比重で合否判定の資料にするというものだったが、それを各高校の特色に合わせて“自由化”してもよいという方針を示したのだ。
 つまり各学校、あるいは定員の一部を区分して(1)学力検査をせず内申書と面接、小論文、実技で選抜(2)内申書の比重を大幅に軽くして、一部の事項だけ評価(3)例外的に内申書を見ず学力検査だけで選抜――といった複数の選抜方法を設けることを認めた。
 この内申書の扱いの柔軟化は画期的なことである。特に「例外」として内申書ぬきの選抜を認めたことは、登校拒否児らへの救済にもなろう。
 また学力検査も学校・学科によって実施教科を増減したり、教科の配点を変えてもよく、学校独自に問題を追加したり、生徒に教科を選択させてもよいとした。
 この多様な選抜方式の導入によって推進会議は「生徒が自分の個性に応じた学校選択を行うことを促進するとともに、生徒が自分に適した選抜方法を選ぶことを可能にした」と述べている。
 その趣旨に賛成である。これまでは高校側の「生徒を選ぶ」論理だけで入試が行われてきたが、今回の新方針は「受ける側」の立場を考慮した入試へ一歩前進したといってよいだろう。
 教育は本来、子どもに将来の夢を実現させるためにある。そのことを考えれば、選抜の多様化は、高校の都合よりも、生徒のために実施されるべきである。
 入試は子どもの希望する進路をさえぎるものであってはならず、自分の個性を伸ばし、自己実現することを保障するものでなければならない。
 それが、中教審が指摘した「心の抑圧」からの解放にもつながるはずだ。
 生徒の「個」に対応した選抜の多様化・選抜尺度の多元化は、入試事務や合否判定に、複雑な作業を要求することになろう。
 しかし、高校入試の関係者は、中教審や推進会議の意図を十分くみ取り、実現に努力してほしいものだ。
 そのことは、進路指導にあたる中学校側にも言えることだ。教師は生徒の個性や興味・関心・適性を十分把握して、助言しつつ、生徒が主体的に進路を選べるようにすることが大切だ。


 
 
 
 
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