1992/07/01 毎日新聞朝刊
[社説]あいまいな高校の総合学科――高校教育改革推進会議・第一次報告書
新しい時代に対応した高校教育のあり方を検討していた文部省の高校教育改革推進会議(大学教授、高校長ら十五人で構成)は六月二十九日、第一次報告書をまとめた。
これは第十四期中央教育審議会の答申(昨年四月)の高校改革に関する部分を具体化したもので、臨時教育審議会(一九八四―八七年)が打ち出した「個性重視の教育」の流れに沿ったものである。
いま高校進学率は九五%。さまざまな能力や興味、関心、適性を持った生徒が高校に進学する時代だ。そうした生徒一人ひとりの個性を伸ばすために多様な高校教育を――というのが、今回の報告書の基本的な考え方である。
その具体策として報告書は、まず全日制の単位制高校の開設を提案している。これは学校が用意した多様な教科・科目を自分の好みにあわせて選択、学習できるもので、学年の枠はなく、学期ごとの入学・卒業も可能だ。
これまで在学した高校で修得した単位も認められるので、親の転勤に伴う転校や、中退者の再入学も容易になる。これは、教育を受ける機会を保障することにもなり、評価したい。
報告書はまた、自分の通う高校にない教科・科目の授業を、提携先の高校や専修学校で受けることができることを提案している。それを二十単位まで認めるという。
これは「授業は一つの学校で完結させる」という、これまでの「閉ざされた高校制度」を、開かれたものにすることにもなり、歓迎すべきことだ。
一方、推進会議は、普通科、職業科とは別に“第三の学科”として「総合学科」という新しい高校の枠組みを「中間まとめ」として報告している。
その趣旨として(1)専門的な知識・技術を身につけ、幅広い視野で物事を判断できる能力、創造性、柔軟性を育てる(2)多様な学習や体験を通して、自分の将来の生き方や進路を探り、それに応じた学習を進める――などをあげている。
具体的には「総合選択科目群」として、情報系、工業技術系、国際ビジネス系、海洋環境系、看護・福祉系、芸術系、環境科学系、国際教養系、体育・健康系、人文社会系、理数系などを例示している。
すでに、これらの「系」を含んだ総合選択制高校が各地に開設されているところだ。
新しい総合学科は、総合選択制のように小学科やコース制をとらないとしている。入学後、「系」を選択することになるわけだ。
しかし全体に総合学科の性格や位置づけが、あいまいである。進学にも就職にも対応できるようにするようだが、どちらの教育も中途半端になりはしないか。中学生が進学先を選ぶとき、迷うことにもなる。
普通科と職業科の間に“第三の序列”をつくる恐れもある。「職業科がますます停滞する」と心配する職業高校側の声もある。
推進会議は、これらの疑問点に応える方向で今後の審議を進めて欲しい。
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