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1991/11/26 毎日新聞朝刊
[社説]社会党の「日の丸」見解は妥当
 
 社会党の影の内閣の文相にあたる嶋崎文化教育委員長は二十四日、日の丸と君が代に関する新見解を示した。
 日の丸については、戦争責任と平和への決意を明確にする国会決議の採択を条件に、国旗として容認する。
 しかし、君が代は天皇主権時代の解釈の延長であり、共感しにくい旋律であることを理由に、新たに国歌を制定するよう提案している。
 影の内閣を組織し、政権を担う責任政党への脱皮を図る田辺執行部が、その現実路線の具体的な証あかしとして打ち出したものであろう。
 日の丸・君が代問題は、長い間、私たちに重くのしかかってきた。戦前の天皇主権、軍国主義、侵略戦争のシンボルとされ、戦後民主主義とのかかわりが問われ続けてきた。
 また保守、革新という政治、イデオロギー対決の先鋭的な論争点ともなってきた。とりわけ教育現場をかかえる文部省と日教組の間では、入学式、卒業式などの公式行事における国旗掲揚、国歌斉唱の是非をめぐって、現在もなお混乱が続いている。
 政府・自民党は、早くから日の丸・君が代を正式な国旗・国歌として認知する方向で、国民世論の喚起に努めてきた。昨年改定した新しい学習指導要領では、掲揚・斉唱を「指導するものとする」と事実上義務づけた。
 法律上成文化されているわけでも、国会での決議もないが、文部省は学習指導要領で国旗・国歌と明記し、政府は「事実たる慣習法が存在する」(一九八八年、内閣法制局長官答弁)との立場をとってきた。
 各種世論調査の結果や、官公庁、教育現場などでの実施状況を根拠に、国民の間に定着してきたとの見解だ。
 とくに日の丸については、国連、オリンピック、航空機、船舶などに使用され、国際的に国家の標識として広く認知されている。このため、各種世論調査での支持も高く、日教組も日の丸を否定しない見解を示してきた。
 旗や歌に罪があるわけではない。しかし、国旗・国歌は歴史や国民感情と密接な関係にあり、戦前の忌まわしい歴史や侵略されたアジア諸国、戦争相手国のイメージを軽々に考えるべきではないだろう。
 また戦争を経験した世代や遺族にも、それぞれ複雑な思いや、深い傷痕(きずあと)がいまなお残っている。
 こうしたことを総合的に判断すれば、「嶋崎見解」で日の丸を国旗として容認するにあたって、戦争責任と平和への決意を盛った国会決議を提案したことは、おおむね妥当と考える。
 この決議採択は、先の代表質問で田辺委員長が提唱したが、日の丸との関係を別にしても、日本が平和国家として国際的な信頼を得るためには必要な措置であろう。
 戦争を知らない世代に、その本当の悲惨さを教え、日本国民が決意を新たにするためにも、日の丸と国会決議の問題は、大いに論議されていい。
 一方、君が代を国歌とすることについては、まだ国民の合意が形成されたとは言い難い面がある。
 「嶋崎見解」が指摘するとおり、歌詞、曲ともに異論が多いことも事実であり、戦後世代には馴(な)じみにくい。もっと時間をかけ、新国歌制定も含めて国民の合意形成に努力すべきではないだろうか。
 国旗・国歌といっても、本来は強制されるべきものではない。国民が共感し、納得するものでなければ、いかに強制しても意味を失ってしまう。とくに歴史的な重みを持つ日の丸・君が代については、慎重に考慮されなければならないと考える。
 国を愛する心は、国旗・国歌で育つわけではなく、何よりも国民に信頼される政治が大前提であることを忘れてはならない。


 
 
 
 
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