文部省が昨春、今春と二年続けて行った日の丸掲揚・君が代斉唱実施率調査は全国の教育委員会や学校現場に大きな「圧迫感」を与えている。今春、校長の「大量処分」を出した高知県はその典型例。
高知県教委は昨年九月、その年の入学式を対象にした文部省の実施率調査結果で同県が「全国最下位で、しかも数値が極端に低く、このような事態は看過できない。完全実施を校長に指示せよ」と教育長名で各市町村教委に通達。結果次第では「厳正な措置を講ずる」とクギを刺した。通達は以後も繰り返し、今年三月、卒業式で実施しなかった学校の校長を一律に“処分”するよう各教委に命じた。
日の丸・君が代をめぐっては、校長が一方的に指示してくる教育委員会と、反発する教師・父母らの板ばさみになり苦悩するケースが各地に見られる。学校内の人間関係や地域個別の事情に合わせて日の丸の式場掲揚はしないなどの「変則」を工夫する所も少なくない。高知の「処分」は校長に「強行」義務を課したといえる。
一方、悲惨な戦争被害と苦難の戦後体験から、日の丸・君が代に複雑な県民感情がある沖縄県では今春、全校で完全実施という結果になった。しかし、現実には大半の学校で君が代は歌入りのテープを流すにとどめ、起立をしない教師も多かったという。調査は現場の校長や地元教委からの報告に基づいており、沖縄の結果が「完全実施」になっていることは国・文部省からの「押し付け調査」に対する暗黙の抵抗が感じられる。
組織率低下に悩む日教組は「強制反対」の立場を取るが、ストや組織抵抗の戦術は放棄している。校長と同様に、反対する教師も「孤立」したり「無難にやりすごす」傾向にある。こうした現場の苦悩や混乱を押し隠してしまった「実施率」は果たして何の意味があるのだろうか。(社会部・玉木研二)
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