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1991/07/07 毎日新聞朝刊
[社説]「参加型」へ動き始めた日教組――定期大会終了
 
 「阻止、粉砕、撤回」から「参加、提言、改革」へ路線転換して二年目になる日教組の定期大会(山形市)が五日終わった。
 ソフトムードの新しい「看板」を掲げて一年、「参加型」の方針が実行に移されたのかどうか、注目される大会だった。
 各地の県教組・高教組からの報告を聞いていると、「参加・提言」に取り組むところが確かに増え始めており、新しい日教組へ脱皮しつつあるようだった。
 千葉県教組は県教委の各種教育関係審議会に代表を参加させている、と報告した。熊本高教組は高校教育改革検討委員会を設け、高校入試改革や三十五人学級、大規模校解消などの政策提言を県教委に行った。
 大阪教組は新学習指導要領に「人権教育」が欠落しているとして、府教委に同和教育、障害児教育、在日外国人教育の指針を出すよう提案、実現させたという。
 静岡県教組は「学校五日制」実現に向けて文部省指定の五日制実験校と交流し、独自に五日制カリキュラム案を作成した。
 このほか、いくつかの県・高教組から、「参加・提言」への取り組みが報告された。先ごろ発表された中央教育審議会答申について「評価できる部分もある」と発言する代議員もいた。
 日教組の今年度の運動方針も「反臨教審」のスローガンを下ろし、学習指導要領についても「撤回」から「押しつけを許さず」とトーンダウン、新採用教員の「初任者研修」も「廃止」から「交渉」へ柔軟な姿勢に改めた。大きな様変わりだ。
 もっともこうした“軟化”に対して、一部の代議員から激しい批判発言もあり、執行部がこれに十分納得のいく答弁ができなかったのは残念だ。しかし、この批判グループからも「参加」路線そのものに反対する声は聞かれなかった。
 運動方針は「学校五日制」実現に向けて、各県で教育委員会、校長、PTA、労組などを含めた「学校五日制推進委員会」を設置すること、高校希望者全入、高校応募者が定員に満たない場合は不合格者を出さないこと、高校中退者の無試験復学制など具体的な提案をしている。
 大場委員長は開会あいさつで「文部省・教育委員会などと、じっくり腰を据えた“対話と協議”をしたい。日教組と文部省が、ことごとく粉砕と対決の関係にあることは、多くの父母・国民の期待に沿うことにはならないからです」と述べた。
 日教組が「反臨教審」「学習指導要領撤回」などのスローガンを下ろしたのは、文部省との対話の場を求めるためという。
 文部省は日教組のこの気持ちをくんで、局長級と日教組執行部の定期協議の場を設けてはどうか。それは学校現場と教育行政者との意思疎通にもなろう。
 学校五日制や高校入試改革など両者の共通課題は少なくない。教育については、対決よりも対話を、多くの国民は望んでいるのだ。


 
 
 
 
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